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初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した歌人・九螺ささらによる、短歌と散文が響き合う不思議な読み物。電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
さりさりという音の反復は、儀式のための禁欲的な音楽だった。 「召し上がれ」恐る恐る口に入れると、夜の祈りの味がした。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
雨の音がしない。あの乾いた大量の雨音も。あのべちゃべちゃで汚ない雨音も。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
「浜名湖の西生まれなの」彼女は電話で、タニシのように言った。 抱けば抱くほどフジツボでわたしの体が切れた。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
喉が渇いて仕方ない。 わたしは、冷蔵庫を開ける。 母からのネクターが十一本、神殿のエンタシスのように立っていて、他にはなにもない。 電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
蟻は、動き出すとき左の一番後ろの脚から上げる。 ※※※この連載に多数の書き下ろしを加えた書籍『きえもの』好評発売中です。※※※
ウエハースの使用例8妖精の腕が骨折した際のギプス ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
「縁側」 四回目だ。 しかしそれに吹き出すべきか否か、判断ができない。 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
溢れるアラザンにおれは流され、しかし全く不安はない。 美しさや甘さは、世界の肯定だ。抗う必要はない。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
神の孤独に気づいたわたしは、もうこのマシュマロを食べる必要はないのだ。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
かまくらの中は二人きりだった。 初めて茉莉に女を感じて欲情した。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
「黄河文明の後の夏(か)の国の王妃が、一匹の猫を飼っていた。 ミイラにしてから埋葬するほど、王妃はその猫を愛していた。」 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
岬くんは全く喋らなかった。 岬くんの視線の誘導で、わたしは彼の家に着いた。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
もう一人のゲストは、死んだばかりのウサギを手にして、 「こんな小さいのですみません」と身を縮めている。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
眠るために選んだので、その町に行きたい場所はなかった。 「パピコ」が何なのか、わたしは知らない。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
気象予報士になってから、日本の雲画像ばかり見ている。 日本列島という動物の、飼育係であるような気分だ。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
「テーブルの端に赤いスプーンがあるじゃないですか」 「あれで、シュガーポットの中の星がすくえます。あれ、夢の外に持ち出し可能です」 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
夢の中で生まれて鳩尾(みぞおち)になった鳩が、 鳩サブレーの尾を激しく欲している。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
わたしは毎日小豆を煮た。二人だけの郷愁を煮るように。 まもなく、朝がくる。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
オールが水飴を練っている。 閉じ込められた水面を、一頭の白馬が走り抜けてゆく。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
実際二人は恋人同士で、相性が良すぎると分かってから性交を断った。 喜怒哀楽にぴったり合った音楽は、人を液体にする。 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
実家で一人暮らしをしていた父が、「二人で暮らそう」と言ってきた。 父は実は寂しいのだろうと、借家を引き払って実家に戻ることにした。 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
なぜ、コロネだけしか売れないのか。 脳細胞同士が引き離され、脳が冷えてゆくような危機感をどうすることもできない。 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
「生ハムメロンは半人半獣みたいだね」 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
「因果関係は流し素麺だ」 その声が耳もとに急に甦る。 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
姉は潔癖症で死んだのだ。 死んだのは塩だらけのベッドの上だった。 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
「ねえ、二乗するとマイナス1になる具体例って何?」 「卵白だよ」 ※※※この連載を書籍化した『きえもの』好評発売中です※※※
後ろに人が並んだ瞬間、溢れるほどの幸福感に襲われる。 使命感に誇らしくなり、一音も間違えないよう「今日は土筆の日」と後ろに伝える。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
毎日月齢のことを考えている。 上条さんは陰暦班四半世紀のベテランで、かぐや姫と呼ばれている。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
愛を訴えたいのだが、一つも言葉が出てこない。 仕方なく、俺は彼女を見上げている。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
もしも銭がたまったら、いつか気に入った水墨画を手に入れたい。 おれは思い出してまた陶酔し、目を閉じる。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
もう、この蹄(ひづめ)を隠さなくていい。 一人の部屋で、わたしはミトンの先を噛み、引き剝がすようにするりと外す。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
「死んだら、埋めて下さい」 何か言付けられているのかと考えた。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
ひらがなが降っている音がする。 千年に一度の邂逅を、わたしは竹筒の暗闇の中で待っていた。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
わたしはエチオピアには行ったことがない。 砂漠があり、紅海の近く、ソロモン王とサバの女王の物語。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
体じゅうの体温が、二度上がった。 生まれてからずっと片思いだった人と、一瞬だけ両思いになれたような、そんな火照りだった。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
「女は体温が高いから料理人には向いてない」なんて迷信だ。 わたしの基礎体温は35・6度で、指先は夏でも冷たい。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
屋根付き橋の中は安全だった。四角い胎内みたいで。 すぐ下からザザーと急流の音が聞こえてきたけれど。中は完璧に安全だった。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
ミケネコ、アメリカンショートヘアー。毛のないエジプト猫のシッポにはパン粉をやや多めにつけて。 わたしはシッポを揚げている。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開! ...
触れれば百パーセント、外さない。 触れなくても五十センチ以内なら分かる。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
会社を突然クビになった。 どうしたらいいか分からなくて、とりあえず、いつか仕事が暇になったら行こうと決めていた甘味処に入ったのだ。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
「勇気を出しなさい!!」 耳もとで聞こえる。うるさすぎて、気を失えない。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
絞められるためにある首、飛べない鳥、まばたきをしない鶏。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
ひび割れたタージ・マハルが視界の壁紙みたいに見えるようになって半年、 杏仁豆腐しか食べたくない。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
ホテルのベッドで、恩田さんは補聴器を外した。 わたしは、夜に更にカーテンが下ろされたように感じて大胆になった。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
何かに導かれるようにして、わたしは真夜中の植物園にたどり着く。 わたしから、時間が漏れた。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
ホフほふとして、まず食感が懐かしい。 「夜十一時から明け方までは外に出ないでください」局長は告げた。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
「あなたがわたしより容姿が劣っているから」 わたしは、口の中で自分の舌を探す。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
殺したい奴がいる。 「食べ頃だな」作家はアボカドサラダを作り始める。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
象の頭や脚やもちろん耳もある。鼻はビニールホースのようだ。 こっそり、二枚の耳を取って逃げた。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
「代わりにカゲモリしてくんない?」 「俺の影を見守るのよ」 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
アンズは夕焼けの匂いで、何か秘匿を含んでいた。 アンズ色の毛糸の山が出来て、二人はそれをベッドにする。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
「親潮は冷たい」という言葉が頭に甦った。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
蓼科さんは母の顧客だ。 蓼科さんは、母とわたしに挨拶をしてから、姉を連れ出す。 ――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!
神奈川県生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。二〇〇九年春より独学で短歌を作り始める。二〇一〇年、短歌研究新人賞次席。二〇一四年より新聞歌壇への投稿を始める。二〇一八年、初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。歌集には『ゆめのほとり鳥』がある。座右の銘は「できるようになる唯一の方法は始めること」