「地方」で国造りをする生き方
「日本を1つの国として捉えると、借金も膨大で、どうしようもなく感じるけど、ブロックに分かれて、それぞれが独自性を持ってコミュニティを作っていけば、なんだかうまくいきそうな気がする!」
「実際、地方再生の声があったり、大阪などは大阪都構想も挙げていたしね。ニュースを見ても、若い人が町興しに携わったり、生活費の安い地域で起業をしたり、アート的な活動をしたり。元気な人達がたくさんいる。君を暗淡とした気分にさせたトップニュースのあとによくやっているだろう?」
「そうですね。ある意味、自分の居場所を見つけている人達にも見えます」
「都市でくすぶっているよりも、よっぽど活躍の場があるかもしれない」
「じゃあ、もし国がブロック分けを始めるとして、僕個人はどうすればいいんだろう」
「ブロック個々を“国”と定義した場合、君はその国造りに携わるんだ。1つか2つの地域を選んで、早々にその国造りにかかわるべきだね。最近はIターンや、自分の出所とは関係ない地方の市役所なんかを志望する人もいるよ」
「国造りかぁ」
「21世紀の仕事は、金を稼ぐこと、つまり経済にはない。共同体を作ることだ。機械がいくら進化しても、共同体を作ることはできない。それは人の仕事だ。国ができるまで20年はかかるだろう。まだ場所を決めていないなら遅すぎるかもしれない」
「遅すぎるって……これは妄想の世界ですよね」
僕は今も出遅れているのではと、少し心配になる。
「世の中は得てして妄想が現実化してしまうものだよ」
「僕はどのエリアに行くべきか……」
「まずは日本を回ってみること。頼るのは、君の直観だ」
理論的な話から急に「直観」なんて曖昧な話になり、びっくりした。
「直観は膨大な情報から本質を見抜く力だ。いちいちあらゆる情報を紐解いているほど、人は暇じゃない。しかし、人は情報を統合する直観力を持っているんだ。君のコミットする場所は、すぐには決まらないかもしれない。東京と地方をしばらく移動し、2拠点生活を送ることになる人だって増えるだろう」
想像とはいえ、紳士の話はどこか具体的だ。
「エストニアだ」
「エストニア……?」
「ロシアから1991年に独立した小国で、世界最高の医療ITインフラを持っている。国を造ったのは当時30代の若者達だったからだ。この国の姿から、ビジネスや企業のような経済体だけを考えていてはだめだということがわかってくる。繰り返し言うよ。君達は、共同体を作らなければならない時代にいる。つまり、産業だけでなく、教育や福祉、法や市場、行政システムまで含めて造り上げる必要があるということだ」
紳士は続けた。
「まぁ、もし、地方での国造りが現実化したら、日本は混乱の時期が訪れるだろうがね。それが嫌なら国外に出るのも一手ではある。でも、小さなコミュニティに属しながら、ネットワークでグローバルにつながることもできる。今後は、コミュニティでの立ち位置と、ネットワークでの立ち位置と、両方を持つ人が主流になるのではないかな。そのそれぞれで、自分の居場所を獲得するんだ」