新訳 世界恋愛詩集

私はあなたの帯になりたい」陶淵明

報われない恋の悩みは、1500年前も現代でも何ひとつ変わらないもの。
中国の没落貴族の家に生まれるも、官吏の職を辞して晴耕雨読の暮らしのなかで詩作に生きた陶淵明(とう えんめい)。彼の残した異色の一篇「閑情賦」が菅原さんの超訳により現代に甦ります。
Superflyの作詞などでも話題を集める詩人・菅原敏さんが、古今東西の詩人の作品に新訳という名のオマージュを捧げる本連載。気鋭の現代美術家・久保田沙耶さんのアートワークとともにお楽しみください。


私はあなたの 衣の襟になりたい
首の香りを いちばん近くで
感じていたいから

(夜になれば 私は脱ぎ捨てられるのです)


私はあなたの 帯になりたい
たおやかな細い腰 締め上げて
束ねていたいから

(季節変われば 私は脱ぎ捨てられるのです)


私はあなたの 髪油になりたい
真っ黒な髪を その白い肩のうえで
とかしてあげたいから

(悲しいことに沐浴で 私は洗い流されるのです)


もしくは私は 眉墨になりたい
あなたのまなざし 向かう方へ
上に下にと動いていたいから

(化粧直しのたびに 白粉に塗りつぶされるのです)


私はあなたの 寝床になりたい
その華奢な体 つつむように
休ませてあげたいから

(冬になれば 虎の毛皮に交換されてしまうのです)




どれもこれも 叶うこと無き 私の願い
山にはばまれ 河に流され
身のほど知らずの 高望み


あまりに早く 日は暮れて
たった100年 生きられない
私たちの毎日は 喜び少なく 悲しみ多く


だから私は 詩を書こう
風よ 夜風よ どうかこの
思い煩い そのすべて
遠き海まで
吹き飛ばしておくれ



「私はあなたの帯になりたい」

陶淵明(365~427)

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新訳 世界恋愛詩集

菅原敏 /久保田沙耶

あまたの恋を書き残してきた、かつての詩人たちに、新訳という名のオマージュを。『新訳 世界恋愛詩集』は気鋭の詩人、菅原敏による新連載。いにしえの恋愛詩の輪郭を、菅原敏のいまの言葉でなぞっていきます。古い詩集に絵の具を落とし、新たな色で輪...もっと読む

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コメント

cnkrit 控えめに見せてくそえろいのめっちゃいい 4年弱前 replyretweetfavorite

hirarisa_R 陶淵明最高だ…… 4年弱前 replyretweetfavorite

natsukareala 良い恋の詩。帯になりたい、かぁ。 4年弱前 replyretweetfavorite

sayakubota あまりに早く 日は暮れて たった100年 生きられない https://t.co/ZZzhDlG3UO 4年弱前 replyretweetfavorite