私はあなたの 衣の襟になりたい
首の香りを いちばん近くで
感じていたいから
(夜になれば 私は脱ぎ捨てられるのです)
私はあなたの 帯になりたい
たおやかな細い腰 締め上げて
束ねていたいから
(季節変われば 私は脱ぎ捨てられるのです)
私はあなたの 髪油になりたい
真っ黒な髪を その白い肩のうえで
とかしてあげたいから
(悲しいことに沐浴で 私は洗い流されるのです)
もしくは私は 眉墨になりたい
あなたのまなざし 向かう方へ
上に下にと動いていたいから
(化粧直しのたびに 白粉に塗りつぶされるのです)
私はあなたの 寝床になりたい
その華奢な体 つつむように
休ませてあげたいから
(冬になれば 虎の毛皮に交換されてしまうのです)
どれもこれも 叶うこと無き 私の願い
山にはばまれ 河に流され
身のほど知らずの 高望み
あまりに早く 日は暮れて
たった100年 生きられない
私たちの毎日は 喜び少なく 悲しみ多く
だから私は 詩を書こう
風よ 夜風よ どうかこの
思い煩い そのすべて
遠き海まで
吹き飛ばしておくれ
「私はあなたの帯になりたい」
陶淵明(365~427)