モテたい」というのは、ごく普通の欲求ですよね?—vol.1

恋人にフラれ、非モテな毎日をおくる主人公のわたなべ。ある日、進化生物学の概念を恋愛に応用した「恋愛工学」と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。藤沢数希さんの話題沸騰の恋愛小説『ぼくは愛を証明しようと思う。』がついに待望の書籍化。6月24日(水)の発売を記念して、AV監督・二村ヒトシさんと藤沢さんの対談が実現しました。自身の非モテをどうにかしようとAVの世界にとびこんだ二村さんが、「恋愛工学」、『ぼく愛』にいだいた感想とは? 「恋愛」を考えぬいた両者の討論をお楽しみください。

恋愛工学は最初は“ネタ”だった。

二村ヒトシ(以下、二村) 『ぼくは愛を証明しようと思う。』の発売、おめでとうございます。あっという間に読めてしまいました。

ぼくは愛を証明しようと思う。
ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希(以下、藤沢) ありがとうございます。

二村 本がまだ出る前の予約段階ですが、Amazonの「日本文学」ジャンルで、ずっとランキング1位ですね。しかし藤沢さんが発行なさっている、すごい数の購読者をもつメールマガジン「週刊金融日記」でも、以前から恋愛工学の教えを語られているわけで、学徒というか信徒のかたもたくさんおられるわけじゃないですか。どうしてその上で、小説版を書いて書籍の形で出そうと思ったんですか?

藤沢 メルマガでは、恋愛工学の理論を解説したり、読者が投稿してくるいろいろなケースをディスカッションしていますが、そうした恋愛テクノロジーは、やはり文脈の中で理解しないと意味はないんですよ。そこで、小説というフォーマットが、一番それぞれの恋愛テクノロジーのニュアンスを伝えられるかな、と思いました。また、まだ、恋愛工学を知らない人もいますから、彼らに僕たちの研究活動を知るチャンスを与えたいとも思いました。

二村 そもそも、なぜ恋愛工学というものの研究をはじめようと思ったんですか?

藤沢 もともと、僕は、自分の恋愛経験や周りの人たちの行動を進化生物学の視点でずっと考えていて、さらに、工学的なアプローチで恋愛の効率の改善みたいなことも試行錯誤していました。それで、10年も前に、金融や経済がテーマのブログ「金融日記」をはじめたときに、言わば一つの“ネタ”として気軽に書いてみたのがそもそものはじまりです。
 立ち位置的に“おまけ”だったわけですけど、それがあれよあれよという間に人気が出て、読者のみなさんがたくさんの反応をくれるようになったんです。それで有料メルマガをはじめて、もうちょっと本格的に恋愛工学に関する記事を書きはじめたら、読者が熱狂的に支持してくれて、彼らがどんどん理論を試して成果を出しはじめたんです。そうすると、さらに理論が精緻化され、恋愛工学ユーザーがもっとモテるようになる、という循環が生まれて、本格的に学問として発展していきました。

二村 学問か……。藤沢さんの理論研究と、それを実際に試す多くの読者との共同作業で、恋愛工学は発展していったわけですね。

藤沢 これは経済学や工学など、実学系の学問を学んだ方ならきっとわかると思うんですが、やっぱり世の中の役に立つものを研究し、それが実際に多くの方に役立つと、うれしいことですよね。そうした、僕の学者としての好奇心や探究心が、恋愛工学の理論を深めたと思います。もちろん、僕もなるべくフィールドワークに参加して、机上の空論にならないようにしていますが。

「救われる」とか「救われない」とか考えたことがない

二村 恋愛工学を学んだり、この『ぼく愛』を読んでいる人たちっていうのは、やっぱりモテたい男性ですよね。藤沢さん自身もきっとモテているんだろうなと思います。それで僕がいちばん訊きたかったのが「藤沢さんはモテるようになって、救われましたか?」ということなんです。

藤沢 救われるかどうか、とか特に考えたことがないんですよね(笑)。僕は中学・高校と男子校の進学校に通っていて、男女交際をしている人はほんの一部で、さらに、僕はゲームが上手いやつが一番えらい、みたいなグループに属していました。だから、大学に入るまで女性とほとんどしゃべったことがなかったんです。あえて言うならそれが「モテなかった」頃にあたるんでしょうけど、そもそも女をどうこうしようなんて想像すらしなかったんで、逆にコンプレックスとか悩みとかもなかったんですよ。それで、大学に入って、生まれてはじめてコンパに行って、女の人と話して、けっこうすぐに年上のお姉さんとセックスできて、可愛い彼女もできたんで、恋愛について考えるというか、悩むタイミングがあんまりなかったんですよね。

二村 すんなり大学デビューできたんだ。

藤沢 だから、日本にずっと住んでいたら、いまの恋愛工学はなかったかもしれませんね。そんなに、苦労しなかったわけだから。ところが、留学して、簡単にセックスできなくなって、ああ、これは恋愛というものを真剣に考えないとな、となったわけです。

二村 日本ではモテるモテないを考えずにすんでいた藤沢さんも、外国ではモテなかったと。

藤沢 やはり英語も上手くないし、遠い国からきた学生だから社会的地位もないし、お金も持ってませんしね。文化もよくわからない。いいなあ、と思った女の子と仲良くなっても、ぜんぜんセックスさせてもらえない。ああ、非モテってこんなに辛いものか、と思いました。恋愛工学で言えば、ヒットレシオが急低下したわけです。だったら、試行回数を上げるしかない。それで、要するに、ほとんど毎日ナンパすることになったんです。これで飛躍的に恋愛工学が発展しました。

二村 「おかしいな、俺は日本ではセックスできてたのに、ここではできないぞ……」と感じて、悔しかったってことですか。いや、でも藤沢さんは別に「自分は非モテだ」って悩んだことはなかったわけだから、コンプレックスとかではないのか……。

藤沢 コンプレックスというか、もっと切実な問題ですよね。とにかく目の前に、セックスできないという切実な問題があって、それをどう解決するか、みたいな。いま、自分で言ってて気がついたんですけど、よく考えると、セックスというか、女の愛情を知らなかった頃は、それがなくても何とも思わなかったのに、一度、知ってしまうと、もう、それなしでは生きられなくなっているわけですね、僕は。

二村 ハハハ。すみません、コンプレックスを持っているのは僕でしたね。僕は自分の本で、異性に対して無意識に持ってしまっている憎しみとか、自己否定感とか、それを無理やりごまかすインチキな自己肯定感とか、そういう問題について考えているもんだから……。

藤沢数希と二村ヒトシは、何が違うのか

藤沢 二村さんの『すべてはモテるためである』、読みましたよ。内容的には正しいなというか、そうだなと思いました。ただ、僕には根本的にわからないことがあるんです。

すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)
すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)

二村 なんでしょう?

藤沢 二村さんは恋愛を語るにあたって、「自分とはなにか」「愛とはなにか」といった部分で悩まれていますよね。それが僕にはよくわからないんです。だって、お腹が空いたら食べ物を探しに行くじゃないですか。それと同じで、恋愛って、性欲が満たされなかったから、満たされるように活動する、というだけの話ではないでしょうか?

二村 なるほどねー。まあ、僕もモテるのが好きなので、モテるための戦略としてAV監督になったり、ああいう本を書いたりしてるんですが、藤沢さんから見ると二村はウジウジしてるってことですよね(笑)。

藤沢 おいしいもの食べたらおいしいって思うし、お金稼ごうと思って、がんばって仕事してちゃんと稼げたらうれしいじゃないですか。

二村 いい女とセックスできたらうれしい?

藤沢 それだけのことだと、僕は思うんですけど。

二村 それは、藤沢さんが異性への憎しみとか偏った想いとかを根本に抱えていないからなんでしょうか……。僕にはあるんですよ。だから、同じような問題を抱えている男女に向けて僕は書いている。そうか、そこが違うのかな。

藤沢 二村さんが書かれているのって、コミュニケーションの基本というか、恋愛工学の手前のすごく基礎的で大事な部分ですよね。

二村 藤沢さんはテクノロジーの人だから、統計学や生物学から考えられる「性差」といった面、それと「市場原理」の法則から、恋愛工学を編み出したわけでしょう。僕は恋愛や性の問題を、自覚できていない異性へのコンプレックスとか、親との関係の中で生じてしまった「その人の性質」から見るのが好きなんです。それらはスッキリと“解決”できるものじゃないかもしれないけど、自覚することでそれまで困難だったラクな恋愛や楽しいセックスができるようになる人も多い、ということを示せたらいいなと。

藤沢 そういう心の問題を考えるというか、そういうアプローチでやっている学者もいますし、そういう切り口が大好きな人がたくさんいるのは僕もよく理解しています。ただ、恋愛工学はなんといっても工学なんですよ。たくさんの男の人がセックスしたいと思ってるわけです。できれば売春とかではなく、自由恋愛でね。だったら、それを効率よくするにはどうすればいいか、と僕は考えるんです。物事をなるべくシンプルにしたい。

二村 恋愛工学と、僕の『すべモテ』では、ちょっと想定される読者が違うということかもしれませんね。僕の本って、ただモテるだけでは苦しいままの「自分や相手の心の穴」について読者自身に考えてもらう本で、それって「モテ」の手前のコミュニケーションでの悩みにもつながっている。藤沢さんの想定している読者は、そこじゃなくて、モテることで屈託なく満たされる人なんでしょうか。ただ、恋愛工学は、ナンパやセックスに依存や中毒症状をおこす男性を生んでる可能性もあると思うんだけど、そうなっちゃった人は、一度そうなってから僕の『すべモテ』や『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』を読めば解毒されるとも思います。

「ホットドッグ・プレス」の代わりになる本を

— 二村さんは『ぼく愛』を読んで、恋愛工学の有用性は感じましたか?

二村 いやー、いわゆる「がんばってる女性」とセックスするには、めちゃめちゃ有効でしょう。そして世の中は、がんばってる女性だらけですからね。  
 「あなたがモテていないのは、あなたが“キモチワルい人”だからである」という僕の主張は抽象的ですが、恋愛工学のキモのひとつである「モテないのは“非モテコミット”しているからである」って、それと同じことを非常に具体的に述べておられるんです。

— ちょっとやさしくしてくれた女の子を簡単に好きになって、その女の子しかいないと思いつめ、必死になってしまう、という、非モテ男性が陥りがちな現象ですね。『ぼく愛』でも、最初、女性たちに振り回されてボロボロになった主人公のわたなべが、そのありさまを「非モテコミット」であると指摘されます。

二村 それが多くの女性にキモいと思われてしまうのは確か。ただ、非モテコミットをやめて「強く」なったことによって別の意味でキモくなる男性も少なくないと僕は思うんだけど(笑)、それはまあ、その人次第。この本には、非モテコミットをやめるべき理由、そのときにとるべき行動がすべて論理的に解説されてる。「ホットドッグ・プレス」無きあと、これだけ実践的な本もなかなかないですよね。文章がふざけていなくて徹頭徹尾マジメだというのも非常に現代的だと思いました。

藤沢 ありがとうございます。そう言ってもらえるとうれしいです。

(次回につづく)

構成:小池みき


本日発売! 究極の恋愛小説、待望の書籍化です。

ぼくは愛を証明しようと思う。

ぼくは愛を証明しようと思う。

愛とはなにか? モテを通じて「自分」を見つめたいあなたへ。

すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)
すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)

この連載について

恋愛工学は日本を救う?—二村ヒトシ×藤沢数希対談

二村ヒトシ /藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。藤沢数希さんの話題沸騰の小説「ぼくは愛を証明しようと思う。」がついに待望の書籍化。6月24日...もっと読む

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go_ariwara 二村ヒトシにとっては「抱いてからが面白いところ」であり、 藤沢数希にとっては「抱くのがゴールであとは興味もない」 口説くテクニックとしては恋愛工学は参考にしても良いが、人生の参考にしてはいけないと思う https://t.co/PNL6E6rwA3 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

go_ariwara 二村ヒトシにとっては「抱いてからが面白いところ」であり、 藤沢数希にとっては「抱くのがゴールであとは興味もない」 口説くテクニックとしては恋愛工学は参考にしても良いが、人生の参考にしてはいけないと思う https://t.co/PNL6E6rwA3 4ヶ月前 replyretweetfavorite

go_ariwara 二村ヒトシにとっては「抱いてからが面白いところ」であり、 藤沢数希にとっては「抱くのがゴールであとは興味もない」 口説くテクニックとしては恋愛工学は参考にしても良いが、人生の参考にしてはいけないと思う https://t.co/PNL6E6rwA3 6ヶ月前 replyretweetfavorite

stpra30 顔こそ出てないんやけど、漂う気持ち悪さ。伝わるかなこの違和感… https://t.co/EWlNCCPukZ https://t.co/7FyA0JxZrs 9ヶ月前 replyretweetfavorite