「大手企業」の指標は、柔軟性・言語化能力・品格と教養
「まず、柔軟性とは、“自意識の解消度合い”のことだ」
「自意識過剰の自意識ですか?」
「そう。人は、端的にいえば、記憶の結晶体だ。物心ついてから様々なことを感じ、考え、体験する中で、価値観を作っていく。それらは、よくいえば美学や信念だし、悪く言えば偏見だ。人は生まれた時は丸いもの。何も偏りがない。自他の区別さえない。まったく真っ白だ。しかし、その後どんどんと知識と情報を得て、凝り固まっていく。それが“自我”だ」
「確かに、自我が強い人って周りから浮いてましたね」
「自我は厄介だ。身体でいえば腫瘍のようなものだ。このゴツゴツした心の腫瘍である自我をできるだけ持たないほうがうまくいく」
「でも、それでは、中身のない人間じゃないですか?」
「別に空っぽの人間になれとは言っていない。仕事をするということをどう捉えているかということさ。そもそも仕事とは、他人や社会に貢献することだろう? だったら、自分でなく相手に合わせられるかどうかってことが必要だ。変に自分のやり方や成功に凝り固まっている人は、人が求めることをやっているようで、自分の自我を押し売りしているにすぎない。主観や自我がないほうが、外に意識を向けられるに決まっている。そういうことを評価するんだ」
「でも、それではよくいう歯車と同じじゃないですか?」
「もちろん、柔軟性だけあっても意味がない、2つ目の要素『言語化能力』が必要だ」
「ボキャブラリーですか?」
「違う。ものごとを客観化して表現する能力のことだ」
「伝える力ですか」
「表現する方法は、言葉でも数字でも論理でもいい。絵を描いても、プログラムを組んでも、レゴブロックで表現しても、音楽でもなんでもいい。とにかく、考えや感じたことを“客観化”する技術のことなんだ」
「僕の友達に美大に行った人間がいるんですが、中学の時、クラスの出し物で劇を作ったんです。その彼が台本を書いたのですが、漫画で書いたんですよ。台本を」
「素晴らしいね。ちなみに、君の役はなんだろう……推理してみると……」
「船乗りです。セリフなしです」
「君らしいね。君の友人の武器は、“絵”だった。人は誰でも自分の得意な表現方法を持っている。それをどう使えばいいかを見極め、磨いていくことを考えるべきだ」
「3つ目の要素、品格や教養だ」
「そこが一番自分に足りてないと思うなぁ」
「そんなことはない。一緒にいて楽しい人、気分のいい人になるということだよ」
「ありますかねぇ、僕?」
「でなければ、こんな爽やかな昼日向、君とこうしてテーブルを挟んではいないよ」
「ありがとうございます」
「外見でさえ、先天的なことだと思うかもしれないが、実はそうでもない。努力によって後天的に獲得するものだ。美しさは学べるし、獲得できる。君は男だから、まずは“清潔感”という言葉を大事にするといい。歯と靴を丁寧に磨き、身なりと言葉を整えなさい。女性なら、“透明感”がそれにあたる」
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