ゴールデンボンバーにみる2010年代のメディア戦略

ポップカルチャーに造詣が深いライターの藤谷千明さんに、現在大ブレイク中のヴィジュアル系バンド「ゴールデンボンバー」について書いていただきました。演奏中にかき氷をかっ喰らう彼らの姿に、日本のポピュラー音楽界の未来が見える……かもしれません。

 耳に馴染みやすい楽曲とコミカルなパフォーマンスで、現在音楽フェスやのTVの音楽特番でひっぱりだこのヴィジュアル系エアーバンド・ゴールデンボンバー。代表曲の『女々しくて』の「女々しくて 女々しくて つら~いよ~」というフレーズは、一度は耳にしたことがあると思います。

 2010年前後からニコニコ動画をきっかけに口コミで噂が広まり、今年の初頭には武道館2Daysを即日完売、近年停滞気味であったヴィジュアル系シーンを席巻し、6月には横浜アリーナ2daysを成功させ、音楽業界全体から見ても注目すべき存在になりつつあります。さすがに名前を一切聞いたことがない、という方は少ないでしょうが、どんなバンドなのかということを詳しくご存知の方も少ないのではないでしょうか。

 ゴールデンボンバーは'00年代半ばに鬼龍院翔(Vo-karu)と喜矢武豊(Gita-)を中心に結成され、何度かのメンバーチェンジを経て歌広場淳(Be-su)、樽美酒研二(Doramusu(暫定))が加入しました。ちなみに、楽器パート表記がローマ字なのは、公式設定なので誤記ではありません。

 パート表記ひとつとってもすでに一筋縄ではいかない雰囲気が漂っているゴールデンボンバー。演奏してない「エアーバンド」と紹介されることが多いです。「エアー」というと、楽器の当てぶりのクオリティを競う「エアギター」は世界中でコンテストが開催されるほど有名ですが、ゴールデンボンバーの舞台においての「エアー」は楽器の当てぶりだけではないのです。演奏中にシャンプーハットをかぶっての洗髪をはじめ、スイカの早食いやかき氷の早食いを始めたり、ステージ上に作られた落とし穴に落ちたり、うまい棒でできたギターを食べるなど、そもそも当てぶりですらないわけで、エアーバンドの概念を斜めに上回る、予想外のパフォーマンスが繰り広げられます。

 もちろん、ただ単に過激でおかしなことをしたいわけではなく、これらは曲が演奏される前にダジャレ的な前フリがあってのこと。例えば、「ギターがうまい」からのうまい棒ギターなど、そういったわかりやすさは彼らの魅力の一つです。

 そんな変化球的なパフォーマンスで注目される一方で、ゴールデンボンバーの楽曲はメタルテイストからダンスチューンまで、幅広い上にキャッチーで耳に残りやすいものが多いです。とくに冒頭でもとりあげた『女々しくて』は'09年に発表されて以降、ニコニコ動画の再生回数は300万を超え、CDは現在もインディーズチャートにランクインしているロングヒットとなっています。


『女々しくて』

 アリーナクラスの会場でライブを行い、楽曲がCMソングに起用され、テレビの音楽番組に多数出演しても、実はゴールデンボンバーは現在でもメジャーデビューしていないのです。メジャーレコード会社7社からのオファーを断って「メジャー行きま宣言」を発表したことは、ファンの間で大きな話題になりました。なので流通はすべてインディーズ専門のレコード流通会社ダイキサウンドが担当しています。

 CDだけでなく先日出版されたVo-karu鬼龍院翔の自伝本『ゴールデンボンバーのボーカルだけどなんか質問ある?』も、既存の出版社ではなく所属のインディーズレーベルから発売されたため、書店ではほとんど取り扱われず、アマゾンなどのネット通販サイトやタワーレコードなどの全国のCDショップを中心に流通されています。

 また、アメーバブログの人気コンテンツである樽美酒研二の「オバマブログ」を書籍化した『ベスト オブ オバマブログ』は扶桑社から出版され、6万部を超えるヒットになっているところをみると、彼らの人気はメジャーでも十分通用するものであることがわかります。
 
 この姿勢は、「メジャーに魂を売らないぜ!」的ロック精神でインディーズにこだわっているというよりは、インターネットもインディーズ流通体制も発達した現在の音楽シーンで彼らがメジャーを選ぶ必要性を感じていないように感じます。音楽不況と呼ばれる昨今「新しいシステムを使って新しい音楽シーンを!」といったお題目はよく見かけますが、一方で、目の前にあるシステムを使って最小限のコストで最大限に成果を出している彼らのようなケースにも、もっと注目すべきなのではと思います。なんせいまだにオフィシャルサイトが広告付きのレンタルサーバーなのですから。

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ここではない、どこかの文化時評

藤谷千明

ポップカルチャーに造詣が深いライター・藤谷千明さんによるカルチャー時評。実はあまり知られていないところで起きている大きな文化的潮流に焦点を当て、なぜ今こんなことが起きているのか、それがいかに面白いことなのかを藤谷さんが解説します。

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