人間の動きは集団で決まる?—ウェアラブルセンサが示す幸福 vol.4

複雑な人間の行動を理論的に研究してきた矢野和男さん。そもそも、物理学を専攻していたにも関わらず、人間の社会現象の研究を始めた理由はどこにあるのでしょうか? お伺いしたところ、矢野さんの口から出てきたのは意外にも『幸福論』という文系チックな本の名前でした。また、矢野さんが気になっている、人が作る「空気」とは。

その日とるべき行動をアドバイスしてくれるシステム「ライフシグナルズ」を自作し、それに従って生きているという矢野さん。だんだんぼくは矢野さんの個人的なことに興味が湧いてきました……今回は、そのアイデアや思想の源泉を、過去に遡って聞いてみます。

「幸福論」の衝撃

 — そもそも、この研究はいつから始まったんですか?

矢野和男(以下、矢野) 2003年くらいでしょうか。ちょうどi-modeが普及していた頃です。我々はグラフィックのチップを作ってたんですが、日立が半導体をやめることになった。そこで、新しいテーマを考えようということになったのがきっかけです。当時はデータ(data)の「D」をとって、「Dサービス」「Dビジネス」って言ってましたね。コンピュータがどんどん小さくなると、機能も変わって、「データを集める」ってことが重要になるだろうと。そういう思惑で始まったんです。

— その頃にビッグデータの可能性に気付いていたのは、かなり早かったですね。

矢野 当時はもう、新しいことをやるしかないという状況でしたから(笑)。なんとか紆余曲折ありつつ、10年続けさせてもらって、やっと成果が出てきたところです。

— 話をお聞きしていると半導体事業がなくなったという偶然からすべてが始まっているみたいですが、もともと矢野さんはこうした統計やハピネスなんかに興味あったんですか?

矢野 私は物理専攻なんですよ。物性とか統計物理、物質の中で分子とかがどうやってくっついたり構造を作ったりするのかっていう研究をしてたんですけど、物質だけじゃおもしろくないなあ、と思ってました。そうしたら、ちょうど大学院の頃に、社会現象を物理理論で扱う「シナジェティックス」っていう学問が出たんです。その本を読んで、自分もこういうことができたらおもしろいなあと。

— 社会現象を物理理論で扱うっていうのは面白いですね。

矢野 ただ、その当時の私にしても、そうやって扱えるのはごく一部の社会現象だと思っていたし、自分自身、社会ってどういう風に動いてるのか良くわからなかった。ただ、複雑な現象を科学したいっていうのはその当時から思っていました。もともとヒルティの『幸福論』が愛読書で。ページが擦り切れるほど読みました(笑)。

— そのときはなぜそんなに幸福論に惹かれたんですか?

矢野 面白かったんですよね。大学二年くらいまでは子どもが育ってきた自然状態で生きてきたのに、急に目が覚めたような気がしましたね。世の中がしっかり見えるようになった気がした。

— ヒルティの幸福論って、どんなことが書いてあるんですか?

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“すこしふしぎ”な科学ルポ

海猫沢めろん

漫画家・藤子不二雄氏はかつて、SFを「すこし・ふしぎ」の略だと言いました。そして現在。臨機応変に受け答えするSiri、人間と互角以上の勝負を展開する将棋ソフト、歌うバーチャルアイドル初音ミク、若い女性にしか見えないヒューマノイド……世...もっと読む

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