デマ、誹謗中傷、過去の失敗が消せない「ネット検索」にどう立ち向かうか

バカッター、リベンジポルノ、など、ネットの進化によって、人生を狂わされる人が増えています。一度ネットに書き込まれた自分の過去は消すことができないのか? 日本で初めてグーグルから削除仮処分決定を勝ち取った気鋭の弁護士・神田知宏氏が、今注目されている「忘れられる権利」の実態や、今の時代に持つべき心構えを考える新連載です。

ネット上では、「人の噂も75日」は通用しない

「ネットでの誹謗中傷に苦しんでおり、消してもらいたい」

「検索結果を見るのが怖い」

「悪口を繰り返し書いている人を特定して、もう書かないようにと言いたい」

「ネットにあるプライバシー情報を削除しないと安心して生活できない」

 ここ数年、私のもとには、個人、法人からのこうした相談が年間100件以上寄せられています。

 相談内容は、おおむね、誹謗中傷、プライバシー侵害の記事を削除したいというものと、投稿した人を特定したいというものに分けられます。

「この苦しみから逃れたい」「一刻も早く削除してほしい」「そっとしておいてほしい」という要望が大半を占めるほど、現状は切羽詰まっています。中には、精神的、肉体的に追いつめられ、通院を余儀なくされている人も少なくありません。

 もはや、生活に欠かせないインフラともなったインターネット。しかしネットには、人の名誉やプライバシーといった人格権を侵害する違法な情報も多数存在しています。

 にもかかわらず、こうした記事の削除は可能かというと、インターネットをめぐる現行の法律、条約ではまだまだ課題も多く、新たな枠組みが必要とされています。

 私たちはICT(Information and Communication Technology)の恩恵を享受していますが、他方、ICTには私たちの生活や人生にダメージを与える負の側面もあり、新しい社会問題となっています。

 ネットで批判や攻撃の対象となるのは、政治家や芸能人、大企業などの特別な個人、法人だけではありません。もし、あなたが対岸の火事だと暢気に構えているとしたら、少し考え直した方がよさそうです。有名無名を問わず、いつ何時あなたの身に火の粉が降りかかってこないとも限りません。

 あなたは、自分自身の名前をネットで検索したことがありますか。どんな検索結果が出てくるのか把握していますか。あなたは、あなたの名前を誰かがどこかで検索しているかもしれないと想像したことはありますか。あなた自身もネット上で検索される情報のひとつだと意識したことはありますか。

 必要な情報は、何でも簡単に検索できるインターネット。あなたに関する情報や記事も例外ではありません。いまや、気になる人のことを気軽に検索するのも、はじめて会う人のことを事前に検索して下調べをするのも当たり前のようになりました。名刺交換後、相手に関する情報を得るために検索することも、ネット上の記事や情報をもとに、何らかの評価、判断をすることも少なからずあることだと思います。

 スマートフォンの普及により、いつでもどこでもネットにアクセスできるのですから、検索が日常的に行われるのは当然のことです。

 さらには、ツイッター、フェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用し、誰もが簡単に情報を発信できるようになったことが、私たちとインターネットの関係に大きな変化をもたらしました。つまり、情報を得るためにインターネットを利用していた人たちが、情報を発信する側にもなったということです。

 ただ、真偽のほどを確かめる術のない人たちまで、簡単に発信することができるのですから、さまざまな情報や記事がネット上に溢れるのも、こうした情報や記事に私たちが翻弄されるのも、仕方ないことなのかもしれません。

 私は、大学法学部を卒業後、IT系の会社を起業してプログラミング、ウェブデザイン、IT系入門書の執筆等に携わったあと、弁護士登録しました。弁護士となってからは、ネット関連の相談に応じることが多いためか、自身の名前で検索すると、公式、非公式、事実、事実無根、好評、風評、匿名、実名など、さまざまな記事が存在しています。

 たとえ、不利益を被る記事であっても、削除請求をしなければ、こうした書き込みは半永久的にネット上に存在し続けることになります。

 先日、若くして亡くなった先輩弁護士の名前で検索したところ、多数の記事が表示されたのを見て、ネットの記事は人が亡くなっても消えないのだなと思いました。

「人の噂も75日」と言われ、良いことも悪いことも、事実も根も葉もないことも、自然に人々の記憶から忘れ去られていたのはいまや昔。検索すれば、75日どころか、10年以上のときを経ても検索結果に出てくるのですから、そのたびに人々の記憶を呼び覚まし、いつまでも忘れ去られることがなくなりました。

 これまでの人間社会は、忘れること、忘れられることでうまく回っていました。たとえ、迂闊な言動を取ってしまったとしても、若気の至りで何かを仕出かしたとしても、ときの経過とともに人々の記憶から消えてなくなることで、出直しも、やり直しも可能だったのです。

 それが、いまはどうでしょう。小さな町で起こったできごともネットを介しあっという間に拡散し、「ここだけの話」では済まされない時代になりました。回覧板に間違いがあったからと改めて訂正文を掲載したり、配付したプリントが間違っていたからと回収すれば済むという時代ではなくなりました。

 たとえ、ネット上に書き込まれた記事がデマやねつ造だとしても、価値のない情報だとしても、事実無根の風評だとしても、簡単に訂正することも効果的に反論することも難しい場合があります。

 そこで、注目されているのが、「忘れられる権利」です。ネットの情報を消してもらうことで、インターネットから忘れてもらい、人からも忘れてもらうことを目的とした権利です。

 もともとEUの法律案で登場し、その後、日本でも紹介された権利ですが、日本では、EUでの意味よりも広く、ネットの情報の削除請求権一般という意味で使われています。

「忘れられる権利」という現代社会の新しい人権をめぐる状況を紹介することで「忘れられる権利」への理解と議論が深まるきっかけになればと思います。

ネット加害者・ネット被害者にならないために

小学生のスマートフォン保有率が上昇しているいま、小学校や中学校の教科書にインターネットでの人権侵害、および「忘れられる権利」が掲載され、子どもたちが早い段階からインターネットでの人権侵害と、「忘れられる権利」について理解し、当事者意識を持つことが重要です。

 四六時中、インターネットにアクセスできるようになり、〝検索〟は生活に欠かせないものとなりました。しかし、検索が根拠のない情報を含むサイトに導くこともあれば、個人を苦しめる情報が不特定多数の人の目に触れる機会を提供してしまうこともあります。

 成人する前にネットユーザーとなった子どもたちこそ、忘れられない時代に生きていることを早くから自覚し、加害者にも被害者にもならないための知恵や知識が必要なのではないかと思うのです。

 名誉権侵害、侮辱、プライバシー侵害をしてしまうかどうかは、ひとりひとりの見識や経験にも左右されます。だからこそ、ひとりひとりが、「この書き込みが他者にどういう影響をおよぼすのか」「この情報を投稿することにどんな意味があるのか」「この記事をコピー、シェアするとは、一体どういうことなのか」などを常に考えながら、インターネットを利用する力、自己管理能力を身に付けなければいけないのです。

 私は、弁護士になる前の司法修習生時代に、どの分野を目指すべきか検討していたとき、偶然、あるIT弁護士ののサイトを目にし、自分も「ITの知識を活かし、IT関連法を扱う弁護士になろう」と考えました。その後、2ちゃんねるの削除依頼をきっかけに、インターネット関連の相談が主なものになっていきました。

 報道によると東京地裁では、インターネット関連仮処分の数がここ4年で20倍に増えたとのことです。今後、増々、IT分野の相談数は増加し、内容も多岐におよぶことが予想されます。

 判例、裁判例の少ない分野のため、新しい裁判例を作るべく日々、文献を調査し、書面を書いていた私にとって、グーグルに対する検索結果削除仮処分決定、「忘れられる権利」決定はまさに一里塚。IT時代に生きる弁護士として、真摯に取り組むべき問題と思っています。


 『ネット検索が怖い』では、いくつかのモデルケースを紹介し、削除請求・発信者情報開示請求が可能かどうかを紹介してきました。しかし、人が生きていく上では、削除できるかどうかではなく、投稿する前の情報の自己管理能力を身に付けることが先決です。

 検索される恐怖に怯えて生き続けることにならないためにも、書き込みによって、他者を、また、あるときは、自らを窮地に追い込まないためにも、私たちは「忘れられる権利」から学び、「忘れられる権利」について考え続けなければならないのだと思っています。

 本書が、ネット〝検索〟に依存する生活について、ネット上にアップされた記事や個人情報について、止まるところを知らないテクノロジーの進化と私たち人間の関係について考えるきっかけになれば、幸いです。

この連載について

ネット検索が怖い

神田知宏

バカッター、リベンジポルノ、など、ネットの進化によって、人生を狂わされる人が増えています。一度ネットに書き込まれた自分の過去は消すことができない のか? 日本で初めてグーグルから削除仮処分決定を勝ち取った気鋭の弁護士・神田知宏氏が...もっと読む

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tokachima22 当事者になったら、日常を失う *** 約1年前 replyretweetfavorite

kirara397okome @kensyouyou_GO @CaptainSawa https://t.co/SZwzNrbmqtそれっぽいのあるらしいっすわ(´・ω・`) 3年以上前 replyretweetfavorite

tah_san_ あるスノーボードサイトで楽しくない記事をみました。 それが事実だとして、だからどんな仕打ちを受けても良いと、ネット上に公開するという「私刑」をすることが、「正義」なのでしょうか https://t.co/kmohKgi9Iv 4年以上前 replyretweetfavorite

narniancat ひとりひとりが自分の身に起きうることとして考えておかなければいけないこと。 4年以上前 replyretweetfavorite