底なしの自己否定感、ができるまで【第1回】

思春期の頃から自傷、自殺念慮、依存に苦しみ、強迫性障害、境界性パーソナリティー障害、双極性障害などを抱えながら生きてきた著者。テレビ番組の収録で、思わず「死にたいままで生きています。」と、口走ったところ、大きな反響を呼びました。なぜ彼女はそれらの自己否定の鎖に苛まれるようになったのか、その成育環境を振り返ります。同時掲載のインタビューもぜひお読みください。


死にたいままで生きています。(ポプラ社)

世界で一番、いらない人間

「私なんか捨ててよ」 「捨てられないなら殺してよ」 鉢植えを投げつけ、泣きわめきながら棒を振り回した―。 私が恋人に暴力をふるうようになったのは、24歳。六年間の遠距離恋愛の末に同棲を始めてほどなくのことだった。 はたから見ればしあわせの絶頂のはず。だけど「しあわせ」とは程遠い人生を歩んできた私にとって、「しあわせ」は「恐怖」だった。 「私なんて愛されるはずがない」 「いつか必ず捨てられる」 四六時中不安を抱き、彼の一挙手一投足に愛情を疑っては怯えた。一日でもセックスが途絶えると、「もう私のことを嫌いになったんでしょ」と詰め寄り、「私なんか捨てればいい」と彼を殴りつける。暴力行為は日に日に深刻化し、やがて自分にも包丁を向けるまでになった。 「愛されたいのに、愛を信じられない」 「しあわせになりたいのに、しあわせを壊さずにはいられない」 そんな歪んだ思考の背景には、「私なんて、世界で一番いらない人間」という底なしの自己否定感があった。

私が生まれ育ったのは、私鉄の終点近くの駅そばにあるのどかな住宅街だった。新しくはない民家が立ち並び、絶えず電車の行き来する音が響いていた。砂利の敷かれたガレージでは子どもたちが無邪気に走り回り、近所の老人が笑いながらたしなめる。その一角にある中古の一戸建てが私の住まいだった。 両親は、エリートサラリーマンの父と、専業主婦の母。外から見れば「ふつう」の、むしろ、一般的な家庭よりも少し恵まれている家庭だととらえられたかもしれない。 だけどその内側では、噛みあわない歯車が、日ごと崩壊の一途をたどっていた。 「本当に俺の子か」 「こんなこともできないのか」 アルコール依存だった父は、酒を飲むたび、私を大声で罵った。 怒鳴られるきっかけはいつも突然だった。私が何か気に障ることをしてしまったこともあれば、さっきまで笑っていたかと思ったら、急に人が変わったように激昂することもあった。 父が怒鳴りだすと、どれだけ理不尽なことだったとしても、母は貝のように口を閉ざして嵐が過ぎ去るのを待つか、泣いて謝った。父は、母が泣きだすまでなじるくせがあったため、母も、少しでも早くその時が終わるよう、泣く習慣が身についていったのだ。 だけど私にとって、かばってもらえないということは、父の罵声を「正しい」と認めることと同じだった。 厳しい言葉を投げかけられるたび、胸がちぎれそうなほど傷ついたが、その都度、私は自分を否定した。 「悲しむ資格は私にはない。できない私が悪いんだ」

ある年のゴールデンウィークのことだった。家から車で数時間かけてアミューズメントパークを訪れた私たちは、広大な駐車場に車を停めゲートをくぐった。前方の花壇では、父が買ったばかりのビデオカメラを構えている。 私と母は、いつも「行動が遅い」と怒られていたことを思い出し、慌てて父のもとへ駆け寄った。その時だった。 「こっちへ来るな! バカが!」 父が怒鳴った。どうやら父の中で撮りたい構図が決まっていたらしく、それに沿わない動きをした私たちが気に入らなかったらしい。 「ごめんなさい」 「もう一回、やりなおすから……」 母とともに謝るが、父は許さない。 結局父は、財布も持たない私たちをアミューズメントパークに残して立ち去り、閉園間際まで戻ってくることはなかった。 毎日が、いつ天災が起こるか分からない場所で生きているようだった。

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死にたいままで生きています。

咲 セリ

思春期の頃から自傷、自殺念慮、依存に苦しみ、強迫性障害、境界性パーソナリティー障害、双極性障害などを抱え、「世界でいちばんいらない人間」だと思っていた「私」が、ありのままを語ります。

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コメント

unnaturalwoman |死にたいままで生きています。|咲 セリ |cakes(ケイクス) 毒親案件。友人の父、こんな感じだったのかなと想像しつつ読んだ。 http://t.co/oJRFfVsO5V 4年以上前 replyretweetfavorite

ohanyoro_chan 一日でもセックスが途絶えると、「もう私のことを嫌いになったんでしょ」と詰め寄り、「私なんか捨てればいい」と彼を殴りつける。【第1回】| 4年以上前 replyretweetfavorite

sizukanarudon 援交、高校中退、風俗、メンタル難民、性依存… 死にたいままで生きています。|咲セリ 【インタビュー】「死にたい気持ち」「依存」はネガティブなだけじゃない https://t.co/XObNERH2eq 底なしの自己否定感ができるまで https://t.co/ibN07e1CEL 4年以上前 replyretweetfavorite

Atack20 自分も小さい頃から無意識の自己否定に悩まされていたな。 4年以上前 replyretweetfavorite