『誰も知らない』(’04)、『そして父になる』(’13)などの監督で知られる是枝裕和の最新作は、吉田秋生の原作コミック『海街diary』の実写化。鎌倉に暮らす三姉妹のもとに、15年前に家を出た父親の訃報が届くところから、映画は始まる。父親の葬儀のおこなわれる山形へ出向いた彼女たちは、異母妹である14歳の少女、浅野すずと出会う。三姉妹の長女、香田幸(さち)は、すずを鎌倉の家に呼びよせて四人での生活を始めることを提案し、すずは彼女たちの家へ移り住む。美しい風景や趣のある街並み、ローカル線の風情など含めて、同じ鎌倉を舞台にした作品を手がけた監督、小津安二郎を彷彿とさせる家族映画としてもたのしめる*1。
『海街diary』は「事情」にまつわる物語である。四姉妹の生活を通じて描かれるのは、誰しもが生きていく上で抱え込むことになる、抜き差しならない事情の数々だ。事情はいつの間にか生活に忍び込み、気がつく頃には身動きが取れなくなっている。それはたとえば不倫であり、離婚であり、家族不和や借金であったりする。事情を抱えた人びとは、複雑な状況とどうにか折り合いをつけながら暮らしていくほかない。
ここで問題なのは、ある種の事情は他人からの理解を得にくい点である。仮に「不倫」という単語だけを取りだしたとき、言葉の持つ否定的な響きがあまりに強いものだから、受ける印象はとたんに単純化されてしまう。たいていの人はそこにだらしなさや無責任を読み取り、非難の目を向け、好奇心をもってうわさをすることになるだろう。結果的に、事情を抱えた人びとは他人から向けられる非難の視線を内面化し、つねに自分を罰するような心持ちで生きていくほかなくなる。不倫関係だった両親のもとに生まれた子どもであるすずは、「私がいるだけで、傷ついている人がいる」と感じながら日々をすごしている。