いくら安くても、成果が上がらなければ無駄である
「でも安ければいいってものでもない。何かをする上で大事なことは“成果”を上げることだ。成果を上げられないようなら、いくら安くやったって無駄だ。当たり前だが、見落とされている事実だ」
「成果……」
「いいかい。成果が上がらない限りは、何をやってもゼロ。成果が上がったら、1だ。成果が上がるまでには時間がかかる。そのティッピングポイント(閾値)までは、すべてがコストだ。であれば、コストが10で成果がゼロより、コストが100で成果が1000のほうがずっといい。つまり、そういうことだ」
「中途半端にやってはいけないということですね」
「そうだ。戦略というのは、全体を俯瞰し、集中すべきポイントを見つけたら、全力で勝てるまでそこに資源を集中投下するということだ。大手の広告会社などは、全国民が3回見るまで、CMにお金をつぎ込まないと意味がないと言っているよ」
「だとすると、どうしたらいでしょうか」
「だから最初に君はコーチに聞くんだ。『成果が上がるまでにどのくらいの期間と時間とお金がかかるか』ってね」
「コーチだからこそ、その算段が出せるんですね」
「そう。あとは気分、というか『めんどくささ』だって立派なコストだ。最初にこれらのコストを“全部”見積もっておくのは継続のための大事なコツさ」
「僕は今まで、とりあえず始めてみよう、と思っていましたが、その考えは間違いだったんですね」
「そうだ。初めに戦略と計画ありきだ」
システムを「根源的欲求」に結びつける
「おや、もうすぐ式が始まるんじゃないかな?」
ロビーには人がだいぶ集まっていた。いつの間にか話し込んでいて、友人の披露宴のことを忘れていた。
「じゃあ、今日話したことをまとめよう。成功のための唯一の鍵は?」
「成功するまでやめないこと」
「そう。そしてそのための基本的なサイクルは?」
「計画・実行・修正を淡々と回すこと」
「メモをとっていないのに、君は優秀だね」
「心のメモに記してますので!」
「では、その他の継続システムの仕組みをいくつか教えておこう。1つは、根源欲求に紐づける力だ」
「欲求……」
「単純なことさ。君なら、お金が欲しい、女性からモテたい。本能的な欲求だ」
「いい家に住みたい!」
「それから社会的名誉みたいなものがあるね。女性なら経済的自立が目標かな? 男性に頼らずに1人でも食べていけるようになりたいと思っている女性は増えている」
「新婦のほうが新郎より年収が高いカップルもいますね」
「もちろん、人生の目的や根本的な価値観、正義感や原体験といったものでもいい。幼少期に家が火事になった。燃え盛る炎の中、消防士に助けられた。その時の記憶で、消防士になる。そんな経験はないかな?」
「すいません、ないです」
「だろうね。だが、君が習得しようとしているものと、これらの永続的とでもいってよい根源欲求との関係をしっかり言語化してごらん。そうすれば君は絶対、それをやめようとは思わないはずだ」
「そうか」
「それから、長期的には効果が期待できるけど、短期的には実感できないものもあるはずだ。たとえばさっき話した『健康』。これこそ、一朝一夕でできることじゃない」
「そうですね」
「その場合は、短期的な報酬を付け加える仕組みを考えるんだ。健康のために漢方を飲む。しかし、漢方は味がいまいちだとする。ならば、メイプルシロップをかけて飲む。これが、短期的な報酬を付け加えることだ。ほとんどの人はすぐに成果が出る短絡的な手段に飛びついてしまう。本当は漢方薬がいいのに、エナジードリンクを飲んでなんとか気力を振り絞るといった感じにね」
「僕も飲んじゃうな、エナジードリンク」
「そこにはやはり私の嫌いな『がんばる』が見え隠れするね」
「24時間がんばれますか?とかですね」
「だが、それはとても非効率な方法だよ。クールな言い方をしてしまえば、とても経済効率がよくないともいえる。健康の経済的価値は計りしれないからね。たとえば運動で7年、禁煙で5年、現役時間が伸びる。つまり5000万~2億円の価値があるってことだ」
「シビアですね」
「先に言った、曖昧なことを、数字に落としてみる。言語化してみるというスキルはとても有効的だ。君はタバコを吸わないね?」
「はい」
「懸命だよ。誰だって5000万円もらえるなら禁煙したいとは思うだろうからね。実際にやるかは別としても」
「5000万円ですか……」