「決まっているじゃないですか。皆さんの本性を暴くためです」
坂井は衝撃的発言後、辞去した。取り残された美沙は、しばらく動くことができず、背もたれに深くもたれたまま宙を見やった。
昼休みを促すチャイムが鳴りハッとした美沙は、ようやく重い腰を上げ自席へと戻った。隣の席ではすでに草加が弁当を広げていた。手にはワンピースの最新刊。
ツイッター事件以降、完全ムシを決め込んでいたが、坂井の言葉を聞いた今、草加への同情が湧き上がる。どこまでも単純な女である。美沙は意を決して口を開いた。
「草加くん、ワンピース好きなんだね」
久々に美沙から話かけられ、草加は驚きのあまり全身が数センチ退いた。そして伺うような眼つきで「まぁ」と頷いた。
みんなで坂井に踊らされるのはまっぴらだ。単刀直入に真相を問う。
「草加くんのツイッターネームってルフィだよね? 青山さんの産休のことツイートした?」
「してません」
えっ? 予想外の返答に驚きのあまり声が上ずる。
「ち、違うの? でも、じゃあなんで何も言わなかったの? みんな草加くんがしたって思ってるの知ってるでしょ?」
「まぁ。実際オレじゃないっすけど、オレも同感だったんで。騒ぎ立てるほどのことじゃないかなって」
ドライな口調とは裏腹に、草加の瞳は潤んでいた。
えっ? 誰かが草加くんを嵌めたってこと? でもいったい誰が……。
坂井の帰社時刻は18時。いつもなら定時に即効で帰る美沙だが、今日ばかりは待つことに決めた。
「坂井部長、ちょっとお話があります。お時間よろしいでしょうか?」
美沙は坂井が戻ってくるなり、静かに詰め寄った。
「わかりました。では5分後に中会議室で」
*
いつもの中会議室で坂井と美沙は向き合っていた。
「お話とは何でしょうか?」
「青山さんに対するツイッターの件ですが、出元は草加くんじゃありませんでした」
「そうですか」
「そうですか、って。草加くん、無実の罪でみんなに総スカンされてたんですよ。それなのに……坂井部長、申し訳ないとは思わないんですか?」
「私は、社内の女性にあのツイートの存在を知らせただけで。草加くんがツイートしたのだと言ってきたのは浅井さんですよ」
「それはそうですが……。でも、あのタイミングであのツイートをみたら、誰だって草加くんだと思うじゃないですか。アイコンもルフィでしたし」
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