A.「意外性」「楽しさ」を重視するクッキングパパの料理は、独創的な料理の宝庫。「おさかなパン」の衝撃に刮目せよ!
クッキングパパは、料理人顔負けの料理の腕前を持つサラリーマン・荒岩一味(あらいわかずみ)がさまざまな料理で日常を彩ったり、ときにはトラブルを解決したりする漫画。ごはんのおかず、人を招いた時の豪快なパーティメニュー、心ときめくお菓子、聞いたこともないような異国の料理、金欠時のお助け料理……いろんな状況に合わせてクッキングパパ・荒岩は閃きとセンス、確かな技術ですばらしい料理を作っていく。
しかし、荒岩とその周辺の人々はさまざまな料理を作りまくった結果、「普通じゃつまらない」という思いが炸裂するときがあるようで、中には作ってみるのにちょっと勇気のいるレシピも多数ある。
フルーツたっぷり酢豚と焼サンマのサンド……!!
初期ではコーラで手羽先とじゃがいもを煮た『ヤング肉じゃが』、多くの人が持つ「酢豚に入っているパイナップル、いらなくない?」という疑問をネクストステージに向かってかっ飛ばすフルーツたっぷりの酢豚『トンピカル酢豚』、後期ではあつあつのマカロニグラタンになぜかりんごのすりおろしをたっぷりのせてみかんを飾った『アップルグラタン』など、凡人を怯ませるには十分な料理がたくさん登場した。
その中でひときわ輝く衝撃料理は、なんといっても『おさかなパン』。焼きたてのコッペパン風のパンに、丸ごと焼いた(内臓はとっていない)サンマやイワシを挟み、頭をもぎとりしっぽと背骨を引き抜いたものだ。パンに黒々と照り輝く魚の塩焼きが挟まっている絵は、いくらほのぼのした世界観を持つクッキングパパでも中和しきれない、かなりショッキングなビジュアルだ。魚はおいしい、パンもおいしい。おいしいものを合わせたからといって、それがおいしくなるのかというと……。『内臓ごと食べたいので(魚は)新鮮なものを』とレシピで解説する荒岩は、「せめて内臓は……」と腰が引ける読者を牽制しているようでもある。
迫力満点『おさかなパン』! ©うえやまとち/講談社
この料理は荒岩が講師を勤める老人料理教室で、老人たちから「子供たちはパンが好きなので孫にパンを作ってやりたい」とリクエストがあり、当日老人たちは孫を連れて来たりしてワクワクしていたのにも関わらず、その経緯を知らずに飛び入り参加した荒岩の仕事仲間のイタリア人・ティートと部下の田中が大量の生のサンマを持ち込むという地獄のような状況の中、荒岩が「じゃあこうしましょう!! 両方合わせた料理を作りましょう!!」と言ってできた料理である。けっして荒岩はヤケを起こしているわけではない。本気なのだ。
なんてことをしてくれたんだ、ティート……。 ©うえやまとち/講談社
でき上がった『おさかなパン』を食べて老人たちは「パンも魚もホクホクじゃー」と喜び、老人の孫たちも「おいしいー」「おもしろい味ー」「こんなの初めて!!」と、魚のはらわたで口の周りを汚して喜んでいる姿は狂気を感じさせる。彼らはきっと祖父に「おいしいパンが作れるよ、楽しいよ」と誘われて連れてこられただろうに、「マジかよ」と文句を言ったり泣いたりする子供はひとりもおらず、みんなおさかなパンにご満悦。この通な味わいに夢中になるとは、博多っ子の食レベルの高さ恐るべし! 私は今でも魚の内臓が苦手だが、博多の子供たちは幼い頃から通好みなのかもしれない。
子供たちは、なかなかシブい味覚 ©うえやまとち/講談社