「人気商品につき、ご注文いただいてから発送までにお時間をいただいております」
2012年10月下旬、アマゾンが電子書籍端末「キンドル」の日本投入を明らかにした。インターネットのサイト上で受け付けを始めると予約が殺到。ネット分はすぐに売り切れてしまった。11月中も状況は変わらず、予約しても年明けまで待つ格好になった。
実は、アマゾンにとってこうした事態は誤算だった。在庫切れを最も嫌がる企業体質であり、本来強みであるはずの需要予測がはずれたというのはアマゾンにとっては決して誇れることではないのだ。
裏を返せば、出荷台数は明らかではないものの、それだけ顧客の期待を集めている製品といえる。
もともと、キンドルは米国で2007年に販売を開始。毎年のように改良が加えられ、イー・インクを採用した白黒画面の電子書籍端末からアンドロイドOS対応のタブレット端末へと進化している。
特徴はその価格にある。「顧客が求めやすい価格で提供する」として、これまで原価すれすれの安値で販売してシェアを広げた。メーカーのように端末販売で稼ぐ気はなく、自社の電子書籍や商品の販売につなげるツールなのである。
もちろんこの5年間、日本への上陸が今か今かと言われ続けてきた。2012年6月にアマゾンのサイト上で「近日発売」と打たれると業界は浮足立ち、大手経済紙も発売予測記事を何度も掲載したが、すべてはずれた。
だが、この電子書籍市場に思わぬ伏兵が現れた。楽天が傘下に収めたカナダ・コボ社である。キンドルと似た電子書籍端末を開発、2012年7月に日本では先行して販売を始めたのである。
コンテンツも性能もほぼ同じ
楽天が健闘し「引き分け」
キンドル日本投入発表後の11月1日、楽天はすぐさまコボの新機種を発表した。その値段が7980円とキンドルを下回ると、なんとアマゾンは発売前にもかかわらず、当初より500円値下げして同じ価格で対抗してきた。
キンドルの担当者は「予約段階の値下げはよくあること。楽天とは関係がない」とうそぶくが、米国では同機種が日本より約2割高い1万円(119ドル)程度で販売されていることからも、明らかに楽天を意識したものとみるべきだ。
ここで楽天のコボとキンドルとの端末性能を比較してみよう(表0‐2参照)。
キンドルは今回、内蔵ライトを搭載、目に優しい画面を実現したと強調するが、楽天にもあるため、スペック的にもほぼ同格だ。
キンドルの特徴は通信機能を乗せたモデルがあること。これなら無線環境を意識せずに電子書籍を買える。さらに、コンテンツはiPhoneなど他の端末でも読むことができる。
一方のコボは、外部記憶装置としてSDカードが使え、「書籍が1万冊入る、手のひらの図書館だ」(三木谷浩史・楽天会長兼社長)という。
端末の能力にさほど差がないとすれば、肝心なのはコンテンツ(蔵書)の数だ。キンドルでは、オリコン100位以内に入るような人気作品の新刊をそろえようと躍起である。楽天は当初、ウィキペディアなども数に含んでいたため批判されたが、現状で約7万点超の日本向けコンテンツをそろえており、ほぼ並んでいる。
ITやコンテンツに詳しいBNPパリバ証券の山科拓アナリストは「端末の差はなくなりつつあるため、勝負は新刊の対応と人気コンテンツ数。その意味では現時点で五分五分だろう」と言う。
世界的には先行者で体力もあるアマゾン・キンドルが有利とみられているが、楽天・コボも意外に健闘しているといえよう。