かつて人々が夢に見た、光輝く未来の国へ—『トゥモローランド』​

「未来」という言葉に、不思議な懐かしさを感じたことはありますか? かつて人々に夢見られながらも実現しなかった輝かしい未来像「レトロフューチャー」を活かしたブラッド・バード監督の最新作『トゥモローランド』が6月6日に公開となりました。SF映画としても注目の本作を、映画評論家の添野知生氏がレビュウします。


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懐かしくて新しい、ブラッド・バードの作家性

 ブラッド・バードといえば「レトロフューチャー」の人である。レトロフューチャーというのは、過去のある時点で考えられていた(だが実現しなかった)未来予測であり、具体的には、1920年代から60年代にかけて人々が夢見た、輝かしい21世紀の未来像ということになる。ウィリアム・ギブスンはこれを「ガーンズバック連続体」と名づけ、現在のスチームパンクの一部もこれを取り入れている。

 子供時代にディズニーのアニメーションに魅入られたブラッド・バードは、高校生ですでに同社のベテランアニメーターから指導を受け、そのままディズニーの作家養成校だったカルアーツに進学。そこでジョン・ラセターやティム・バートンと共に学んだのはすでに伝説だが、そんな彼が、短篇「いじわる家族といたずらドッグ」(ティム・バートンも参加)や「ザ・シンプソンズ」を経て、ついに長篇監督デビューを飾ったのが、『アイアン・ジャイアント』(1999年)だった。

 ブラッド・バードの代表作といえば、その『アイアン・ジャイアント』と、次の『Mr.インクレディブル』(2004年)である。『アイアン・ジャイアント』は1950年代のアメリカに、より進んだ科学技術で作られた大型ロボットが飛来する話で、流線型の自動車をはじめとする当時の未来的デザインと、それをさらに洗練させ、実際に動く形に落とし込んだ(この手腕がすばらしい)デザインのロボットが出会うという、懐かしくて新しいSF映画だった。

『Mr.インクレディブル』は、架空の都市を舞台にしたスーパーヒーローものだが、その都市や交通、住宅、さらにヴィランの秘密基地にいたるまで、すべてがレトロフューチャーのデザインラインで統一されていて壮観だった。『アイアン・ジャイアント』が、冷戦下のアメリカを舞台にしながら、その歴史的意味をうまく活かせず、悪役にすべてを押しつけることで、終盤いきなり物語が失速してしまったのに対し、『Mr.インクレディブル』では、統一された世界観がみごとに打ち出され、ここにブラッド・バードの作家性がひとつの完成を見た感があった。

 そんな彼が、他人の企画を引き継いだ『レミーのおいしいレストラン』(2007年)、実写映画に進出してヒット作を作れることを証明した『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)に続いて、ついに、11年ぶりに、『スター・ウォーズ』新作の監督を蹴ってまで、自分自身のオリジナル企画に還ってきたのが最新作『トゥモローランド』である。しかもここでは、レトロフューチャーという概念それ自体を、物語の中心アイデアに昇格させている。これが興奮せずにいられるだろうか。

レトロフューチャー都市の冒険

『トゥモローランド』はまず、1964年のニューヨーク万国博覧会から始まる。科学と発明による明るい未来が信じられていた時代の掉尾を飾る一大イベントであり、レトロフューチャー映画にまさにふさわしいスタート地点といえる。小学生の少年フランクは、自作の飛行用ジェットパックを発明コンテストに持ち込むが失敗。だが審査員の背後にいた謎の少女アテナに導かれ、アトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」(のちにディズニーランドに移築される)にむりやり乗り込むと、なんと秘密の地下施設に誘導され、エレベータ型転送装置を抜けるとそこは、光輝く未来都市トゥモローランドだった。

 一方、舞台は現代に変わって、もうひとりの主人公、女子高校生ケイシーが登場。NASAのエンジニアの娘で、科学大好き、好奇心旺盛、行動力あり過ぎ。というわけで、深夜にケープ・カナベラルのケネディ宇宙センターに侵入し、スペースシャトル発射台の解体を阻止する妨害工作をしている。宇宙飛行士になりたかったが、ちょっと生まれるのが遅かった、という悔しさはわかるが、敢えなく御用となり、警察署内でいきなりトゥモローランドのヴィジョンを見る。そこでは雲衝く摩天楼のタワーを中心に、空飛ぶ列車が行き交い、人種も服装も多様な人々が幸せそうに生活し、そして何よりも若い男女があたりまえのように宇宙旅行に出発していた!

 というわけで、この二人の人生が絡み合い、未来都市の謎が少しずつ解かれていくのがこのあとの展開。いちばんの見ものはやはりブラッド・バードの想像力の集大成というべきトゥモローランドの造形で、細部まで作り込まれたこのレトロフューチャー都市をいつまでも見ていたいと思わされる。少年フランクのジェットパックを使った空中アクションは宮崎駿の実写版を思わせるし、闇にまぎれて自室を抜け出し、バイクを駆って目的地に向かう少女ケイシーの行動力も極めて魅力的。彼女の活躍を見ているだけで胸が熱くなる。演じるブリット・ロバートソン(「アンダー・ザ・ドーム」など)が、頭がよさそうに見えて、だけどアクションもコメディもいけるという難役を嬉々として演じてすばらしく、新スター誕生を確信させる。

 SFファンにとってのお楽しみは、中盤に登場する。マニアックなSFショップ「ブラスト・フロム・ザ・パスト」。ごちゃごちゃした店内にあれもあるこれもあるとつい声が出てしまうこと請け合いで、これまたいつまでも見ていたいと思わされる。アイアン・ジャイアントがいるのもうれしい。

 そして、ギュスターヴ・エッフェル、ジュール・ヴェルヌ、ニコラ・テスラ、トマス・エジソンから成る秘密結社に言及が及ぶあたりは、偽史冒険ロマン派にも堪えられない展開で、「お楽しみはこれからだ」の名セリフも盛り上がる。

 と、終盤まではわくわくする見せ場の連続なのだが、フランク(ジョージ・クルーニー)とケイシーがついにトゥモローランドに乗り込んでから、物語は急に失速する。未来都市がどこにあり、何のために作られたのか、という肝心かなめの設定が弱く、説明もはっきりしない。かつて人々が夢見た、光輝く未来は、現代の世界にとってどういう意味があるのか、というレトロフューチャーの大テーマを設定しながら、それに正面から真剣に答えることを避けている。その歴史的意味をうまく活かせず、悪役にすべてを押しつけることで、物語が持っていた可能性を追求しきらずに終わってしまう。鳴呼、『アイアン・ジャイアント』の時と同じだ……とうめいたのは、私だけではないだろう。

 脚本はブラッド・バード自身と、「LOST」『スター・トレック』『カウボーイ&エイリアン』『プロメテウス』『ワールド・ウォーZ』『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のデイモン・リンデロフ。この二人が揃っていて、どうしてもう一歩踏み込めなかったのかと思うと、なんとも惜しいし、悔しいのである。

 とはいえ、終盤までは絶好調で、多数の見せ場があるこれほどの映画を、SFファンが見逃すことは考えられない。コリイ・ドクトロウ『マジック・キングダムで落ちぶれて』の愛読者もぜひ見てほしい。そして、美少女ロボット好きは絶対に必見である。



『トゥモローランド』(Tomorrowland/2015/アメリカ/130分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン/新宿ピカデリー全国公開中)監督:ブラッド・バード/出演:ジョージ・クルーニー、ほか
オフィシャルサイト:http://www.disney.co.jp/movie/tomorrowland.html


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この連載について

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添野知生

公開中/もうすぐ公開の、注目のSF映画をレビュウします。

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コメント

nishi_ogi その「惜しさ」こそが監督の葛藤そのものなんでしょうね。> 4年以上前 replyretweetfavorite

sowkami  /100%同意します 4年以上前 replyretweetfavorite

ymgsm 映画『トゥモローランド』、添野知生氏がこんな風 https://t.co/cTd6uiUrw9 に誉めているので見たほうがいいかなと思って見にいって、大正解でした。『チャッピー』についてSFファン必見!といったツイートが目につきますが、それは本作も同様。(続 4年以上前 replyretweetfavorite

shiozaway あ、でも、添野知生さんの「トゥモローランド」レビュウは公開されています。よろしくお願いします。https://t.co/qjKbicbccv 4年以上前 replyretweetfavorite