55歳女子の婚活 Vol.03~50代女子の婚活は「現実の客観視」という地獄の通過儀礼からはじまる

55歳・バツ2オンナのガチンコ婚活記---二人の子どもを生き甲斐に、女手一つで来たけれど、やっぱり寂しい時もある。自分の殻を脱ぎ捨てて、不安も羞恥も乗り越えて、咲かせてみたいわ愛の花。だけど恋って難しい。私は臆病ものだから――。

55歳・バツ2オンナのガチンコ婚活記
「恋よふたたび」(その3)


illustration:Shimoda Ayumi

あしたのために 3―恋愛運動神経を取り戻す

「どうしても自分のセルフイメージって、いいときで止まっているんだよね」

いみじくも中瀬さんは言った。まさに! トイレで鏡を見なくなったのは、信じたくない姿を見てしまうから。地下鉄の窓に映る自分なんて、恐ろしすぎる。起動したスマホのカメラが自撮りになっていた時なんて、それはもうホラー。

「中高年女性で難しいのは、実年齢相応の自己認識だよね。だって残酷だもん。もう、若くはないって」

そこ、そこ、そこなの。涙が出ちゃう。

「若い時は素材として市場に投げ出されていれば男は来たけど、もはや来ないという残酷な現実を知るところから、中高年女子の婚活は始まると思う」

50女の婚活は、自分の現実を客観視するという、地獄の苦しみを通過しなければ始まらないというわけだ。これ、口で言うのは容易いんだけど・・・・・・。

それにしても女の価値は、年齢を重ねるたびに急降下、暴落する一方だ。

2人で笑った。

「30代で、“おばさん”なんて言ってるの、どつきに行きたいよねー」

そうだ、そうだ!

「黒川さんは恋愛運動能力が落ちていると思う。若いときは『行ってもいい箱』と『行ってもムダな箱』とを瞬時に判断できたはず。自分の好みも、NGが何なのかも忘れている。だから、落ちた恋愛運動神経を取り戻さないといけない」

まずはトレーニングとして中瀬さんが提案してくれたのは、通りすがりや電車内、お店などにいるそこら辺の男性を片っ端から、2つの箱に分けて行くこ と。生理的にあの顔とキスできるか、絶対これは無理かを、瞬発的に分けて箱に入れていく。これでまず、失った運動神経を回復させるということらしい。

「箱に分けて、『行けるかも』箱の中から選んで行くというのが大事。やみくもに行ってもしょうがないから。だって、無駄だから。まれに、『無理』箱からの復活もあるとして・・・・・・」

実際、試してみてわかったことがある。オッケー箱に入るのは大抵、若い男性ばかり。おじさんを私のオッケー箱に入れるのが難しい。

つくづく思った。男性はいくつになっても若い女が好きで、だから「男はしょうもない」と揶揄してきたが、おばさんだって「しょうもない」のだ。そこははっきり認めよう。

それとも私の男性を見る眼は、16年前で止まったままなのか。「男として」おじさんを見慣れていないから、「恋愛可かも」の箱に入らないのだろうか。

箱に入れるという「効果」を、中瀬さんは次のように説明した。

「『これは、マシ』を、無理矢理にでもひねり出すようにならないとやっぱり、ダメだと思うんだよ。冷蔵庫の残り物で、何でも作れるようにしていかな いと。だって嫌な中身のイケメンより、いい中身のブサメンの方がいいじゃない? それにいい物件は空いてる期間が短い。すぐに買い手が決まるわけで、そこ を中高年女子が得るのは奇跡。やっぱり狙うのは隙間だね」

特効薬はとにかく、「いろんな男に一対一で会って行くこと」ということで、焼酎のレモンお湯割りを4~5杯飲んだところで、新橋へ移動。中瀬さんが雑誌で以前、見たという、婚活スナック「aeru」へ2人で乗り込んだ。

駅前の飲み屋街の一角、半間ほどのドアを開け、階段を上る。店はかなり狭い。コの字のソファーに、テーブルが3つ。お客は40代後半の男性と、アラサー女性の2人組。みんなが下を向いてひたすら何かを見ている。

女性店員が店のシステムを説明する。

「うちには900人の会員がいます。男性のファイルだけで9冊あります。ファイルを見るのは自由ですが、登録をすればそのファイルの中でいいと思った2人の写真が見られます。最初は2人だけお見合いが申し込めますが、2回目以降は5人まで大丈夫」

登録料は5400円。その場で顔写真を撮られ、プロフィールや自己PRを書き、登録が終了。毎回の利用料は、女性は2700円。席に着けばポップコーンなどの乾きものがバスケットで出され、アルコールは飲み放題だ。

「写真が見られる」という意味は、ファイルをめくってすぐにわかった。提示されるのは住んでいる場所、出身地、年齢、身長、体重、趣味、年収などの 文字情報のみ。これを手がかりに会ってみたい人を炙り出し、希望を伝えればiPadで顔写真を見せてもらえる。その上で実際、会いたいなら希望を店に伝え る。店はその相手に、お見合い希望が来ていることを伝える。店の仕事はここまでで、申し込んだ側が相手の意向を確認するには、ひたすら店に通い続けるしか ない。

占いもするというママがやってきた。40代前半だろうか、着物がよく似合っていて、かわいらしくて色っぽい。私のデータを見て一言。

「この年齢では、ちょっと難しいかもしれません。とにかく、お店に通ってください。女性の決め手は見た目と年齢、そして男性は経済力です。女性は努 力して、最大限に見た目を上げないとダメです。大人の色気を意識して。服装も男性目線を意識して、そうやって相手に見た目でサービスしないと。婚活はサー ビス精神を持って、男性にどれほど喜んでもらえるかにかかっていますから」

なるほど。でも、これまでの人生で1度もそんなこと思ったことがない。こんなに長く生きているのに一体、何を学んできたのだろう。目の前にあるママの豊満な胸だけで、めちゃくちゃ説得力がある。ママはさらに言う。

「婚活は、合わせ鏡のようなもの。寄ってくるのは、自分と同じような人ばかり。だから最大限に自分を磨かないと、いい男性とは出会えないんです。見 た目は、相手へのサービスなの。包容力を持って、男性に喜んでもらえるよう、自分を与えないとダメ。セクシーにすることは、とても大事」

どうやらその「見た目」じゃダメだと、はっきり太鼓判を押されたらしい。全然、努力が足りないと。そんな服じゃ、てんでダメで、セクシー度は評価外だと。そのとおりだった。まず、何も努力をしていない。

男性にサービスする、喜んでもらう・・・・・・そんなことを考えなくても、若い頃は相手ができた。そのかつての傲慢さを、ママは正しく指摘する。女 性はある年齢以上になれば、受け身ではいけないという。ママはその年齢を、「35歳以上」とした。ひえええー、何てこった。「素材」だけでオッケーなのは 34歳まで? 私、長い間、何をやってきたのだろう。この「気づき」がなかったから、これまで何も起きなかったというわけか。

辿り着くのは、同じところだ。

「婚活とは自分と向き合うこと。自分を客観視できない方は無理ですね」

出たー、五十女が恐れ戦く妖怪「客観視」。やっぱり、ここなのだ。だけど婚活を始めた以上、もう逃げも隠れもできない。

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