55歳・バツ2オンナのガチンコ婚活記
「恋よふたたび」(その1)
(文・黒川祥子/ジャーナリスト)
illustration:Shimoda Ayumi
あしたのために 1―まずは再起動
2014年、クリスマスイブ。私は、青物横丁駅近くの薄暗い路地にいた。目の前にあるのは、婚活居酒屋「四万十」の看板。階段を上ればいいだけなのに、なかなか踏ん切りがつかず、さっきから行ったり来たりしている。
イブの夜だというのに、青山でも表参道でもなく、何で私はよりによって青物横丁にいるのだろう。しかも、たった1人で。
「思い切って」、ここにやってきた。清水の舞台から、飛び降りるような思いで。 イブの夜に1人で婚活居酒屋に行く―それが自分にとって何よりの「婚活宣言」となるはずだ。これは自分に命じた滝行なのだ。そこまで追いつめないと、いつまでもぐずぐずと何もしないままの言い訳ばかりを考えてしまう。背水の陣まで追い込まないと何もできない情けなさを、自分でとくとわかっている。奮い立たせるには、カンフル剤が必要なのだ。
と、勇ましく吠えてみたが、実はそこまで潔い話でもない。
「24日の夜は、サークルの飲みだから」
という次男の一言で、私は26の歳で子どもを産んで以来、初めて、イブを1人で過ごさなければならなくなった。子どもたちが小さい頃はごちそうにサンタのプレゼントと忙しかったけれど、「母」として楽しい時間を過ごしてきた。しかし今、そんなのどかな時代は過ぎ去った。そう、過ぎ去ったのだ。
それにしても、イブってみんな忙しい。寂しいから、いろいろ声をかけてみたけれど、誰もがきっちり塞がっている。1人で婚活酒場へ繰り出すのだと意気込んでみたところで、実はそんな消極的理由だったりする。
ではなぜ私は、婚活という市場に参入するのか。しかも、55歳というこの歳で。正直、私には今でもまだ幻想がある。もしかしたらどこかに“胸キュン”や、はたまた“壁ドン”の世界だってあるんじゃないかと。思っていないと言えば? になる。だって中川郁子は56歳で路チューできたではないか。素晴らしい。
一方、こちらはといえば、38歳で離婚してこれまで一切、何も起きていないのだ。男ナシ歴を毎年更新、ついに2015年秋で17年をカウントする。いい加減、現実を直視せねばいけない。
私には離婚時、ひそかに立てた誓いがあった。
「もう、男で問題解決するのはヤメよう」
そもそもどこかに、男性への依存傾向があった。離婚という錯乱した中で、よくこんなまともな思考をしたなと今でも思う。おかげで2人の息子はグレることなく無事、育った。依存傾向もどこかへ行った。離婚時、4歳だった次男は二浪してやっと志望大学に入った。もう、いいだろう、この誓いは。というか、この誓いを立てた時「次男が高校卒業するまで」という期限を確か決めたはずで、とっくに守る必要が無くなっているにもかかわらず、基本、何も起きていない。恋愛どころか、年に1、2回は起きていた「事故」すら、ここ3年は一切ない。ずっと安全運転を続けている。かつて、出会いはそこら辺に転がっていた(ような気がする)。しかし、いつからか、待っているだけでは出会いの片鱗すら、見えてはこなくなっていた。
今までの延長の日々を断ち切らないと、あっという間に“アラ還”になってしまう。そんな恐ろしい事態だけは何としても、どうやっても避けたい。何とかして、そろそろ「女」に戻りたい。16年も忘れていた「女」というものに。
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