“一〇〇一話をつくった人” の栄光と悲惨(後)

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! SF作家・星新一の知られざる素顔とは――。 今回は「SF観光局」の第6回後半を再録します(SFマガジン2007年6月号より)。

 それを象徴するのが、賞に対するこだわり。直木賞落選の経緯は本誌前号でも触れたが、本書を読んでそれ以上にショッキングだったのは、星雲賞にまつわるエピソードだ。

 大阪万博以降、新一周辺のSF界で微妙な変化が起きる。昭和45年の第9回日本SF大会で、ファン投票によって選ばれる星雲賞が創設されたが、まずはその結果に顕著に現れた。(中略)星雲賞を企画した伊藤典夫によれば、その(=浸透と拡散の)過程で、星新一は「偉大なるマンネリ期」に突入し、SFファンの星新一離れが起きていた、というのである。(p406)

 個人的な記憶で言えば、当時、“SFファンの星新一離れ” が起きていた実感はない。十代のSFファンだった僕自身は、70年代を通して、熱心に星新一の新刊を読みつづけていた。だから正確には、“三十代SF読者の星新一離れ” と呼ぶべきだろうと思うのだが、それはそれとして、たしかに星新一は星雲賞を一度も受賞していない。小松左京が六回、筒井康隆が七回も受賞しているのにくらべれば不自然にも見える。しかし、それを言うなら光瀬龍や平井和正も星雲賞を受賞したことがない。人ではなく作品に与える賞だし、根回しも何もなく投票だけで決まるから、めぐりあわせが悪いと、当然受賞してしかるべき人がいつまでも受賞しないこともままある。しかし、最相葉月はSFファンに追い打ちをかけるようにこう書く。

 SFを牽引してきたにもかかわらず、SFが盛り上がるころには、SFの読者は自分から離れている。なんとも皮肉な話ではないか。
 柴野拓美は、
「ぼくは星雲賞もらえないの?」
 と新一に訊かれ、
「ブラッドベリもヒューゴー賞もらってないよ」
 といってなぐさめるのだった。(p407)

 まさか星新一自身が星雲賞をほしがっていたなんて……。SFファンとしては青天の霹靂だが、客観的に考えれば不思議はない。作家は何歳になっても評価に飢えているものだし、どんなに偉くなっても神棚に祀られる(評価の対象にならなくなる)ことを嫌う。むしろ、年をとるほど抑制がはずれ、かつては胸の奥にしまい込んでいた生臭い思いを平気で口にするようになる傾向が強い。そういう例は、僕自身、過去にも現在にもたくさん目にしている。ただ、星新一に関しては、そういうふうに考えたことが一度もなかったというだけのことだ。

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oy6528096 下記はそれらの情報源。 https://t.co/JtxQK5835F https://t.co/csqMinpR8S 2年弱前 replyretweetfavorite

Annan3 星新一秘話 → 4年以上前 replyretweetfavorite

Hayakawashobo こちらは星新一さんについてのお話、後篇更新です。 4年以上前 replyretweetfavorite