最後の木を切り倒す時、最後の川を汚す時、最後の魚を食べる時、
人間はや っとわかるだろう、お金は食べられないということが。
(米大陸先住民の言い伝え)
ナマケモノとシャーマンが来てくれた
ナマケモノ倶楽部をつくって間もなく、ぼくは学生たちとのスタディ・ツア ーで南米エクアドルのアマゾン川源流地域を訪ねた。その時のことを話そう。
長い船旅の末、やっと宿泊地であるパニャコチャ湖のほとりに到着。各自あ てがわれた部屋に荷物を放りこんでおいて、早速、湖に飛びこむ。この湖に棲 むカワイルカの姿を見ようと、奥へ奥へと泳いでいく。
陽が大きく傾き、あきらめて引き返し始めた時だ。学生の一人が悲鳴とも歓 声ともつかぬ声をあげた。見ると、イルカのなめらかな体が水面の上で、弓な りの曲線を描いている。英語でピンク・ドルフィンと呼ばれるとおり、そのか すかに桃色がかった灰色の皮膚が、夕陽を受けて輝いている。続いてもう一頭、 またもう一頭……。それからしばらく続いたイルカたちの踊りを見ながら、ぼ くたちは皆、言葉もなく、ただ呆気にとられていた。
後でガイドから、あれが湖の神様だと聞かされた時には、誰も驚かなかった。 泳いだばかりの湖のパニャコチャという名前が、「ピラニアの湖」を意味すると 知った時には、さすがにみんなちょっとドキッとしたが。もっとも、ピラニア を「人食い魚」などと呼ぶのは誇張で、肉食魚とはいえ、自分より大きいもの からはすぐ逃げるという。アマゾン滞在中の食事にはたいがいそのピラニアが 出された。魚というよりは、鳥類の肉のような味と食感だった。
さて、そのキャンプを去る朝のこと。夜中の大雨はあがっていた。ぼくは扉 をたたく音と叫び声で起された。何事かと思ったら、ドアの向こうで女子学生 の声がこう言っている。「先生、大変です、ナマケモノが広場に来ました!」
ぼくはカメラをつかんで、母屋の前にある広場へ向かって急いだ。ナマケモノの遅さを考えれば、そんなに慌てる必要はなかったのに。広場の真ん中に立っているパパイヤの木の幹の、ぼくが爪先立ちして手を伸ばしてやっと届くく らいの高さに、ぼくが見慣れているものより毛がふさふさとして少し大きめのナマケモノが、じっとしがみついている。他の学生たちが知らせを聞いて集まってくる。彼らにとっては初めて見るミツユビナマケモノだった。
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