土田晃之【前編】「自分では絶対に買わない本」を、僕が出版した理由

ひな壇芸人のパイオニアとして、いまや確固たる地位を築いている芸人・土田晃之さん。その土田さんが、経験から学んだ生きる知恵を惜しげもなく披露した本を上梓しました。もともとは雑誌の連載で、読者からの悩み相談に答えたものですが、どれもガチな相談で、それを切れ味よくさばいていく土田さんの腕前が見事です。今回本についてお話を聞きに行ったのですが、土田さんから、衝撃の事実が明かされることに……。

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すべてを知ってるように話すには

 僕のことを“ものすごくいろいろなことに詳しい”と思っている人がいるかもしれないですけど、それは違います。実はそれほど詳しくないこともいっぱいあります。“全部知ってるように”見せてるだけ。それはちょっとしたコツがあったりします。

『土田さんはどうしてそんなにひとつのことに詳しいんですか? ガンダムでもサッカーでも家電でも、番組を見ているとすべて詳しいので、いつも感心してしまいます。私にもそれだけの知識があれば仕事に活かせるのに……と思ってしまいます。どうしたらそこまで詳しくなれるのか、秘訣を教えてください』(30歳・営業)

ひとつのことをすごく深い知識でしゃべる

 ひとつのことに詳しいっていっても、僕もすべて知っているわけではありません。『ガンダム』にしても、1から10まで全部を網羅しているわけではないですから。ただ、すべてを網羅してるようにしゃべるんです。それは単純に技術です。僕の特技のひとつで、ちゃんとしたことを言ってるように見せられるんです。

 以前、ある番組で、カラテカの矢部太郎とガンダムのプラモデルだらけのホビーショップへロケに行きました。まず、僕はガンプラのモデルについて、適当に知っていることをバーッとしゃべるんです。すると矢部がこう言うんです。「全部知ってるんですね」って。

 いやいや、もちろん全部知ってるわけがない。あんな何百体もあるプラモデル、全部把握してるわけないじゃないですか。ただ、ひとつの棚を見たときに、1個だけしゃべれるものを見つけたんです。だからそれについてすごい深い知識でしゃべった。で、他はそこに書かれている名前を読み上げただけ。でも聞いているほうはそれだけで全部知ってるように感じてくれたみたいです。

『納得させる話力』24Pより

『納得させる話力』土田晃之/双葉社/1000円
あらすじ:ひな壇では強い存在感を示し、MCから絶大な信頼を得る土田晃之さん。ポジション取りの巧さに加え、トーク技術、プレゼン能力の高さなど、土田氏の武器はそのままビジネスマンが身につけたい要素ばかり。そんな土田さんが語る、他人に「こいつ、わかってるな」と思わせるテクニック、プレゼンにおいて大事なもの、そして、他人との付き合い方……とは?

思っているほど、誰も他人のことを気にしていない

— 『納得させる話力』は読者からのお悩み相談で構成されていますよね。普段から土田さんはよく他人に相談は受けたりするんですか?

土田晃之(以下、土田) 後輩からはよくされますね。仕事の悩みとか、人生についての悩みとか、結構深刻な話題が多いです。まぁ、でも気軽な質問は無視しますからね。そんなの相手にしている時間ないですから。

— どんな感じで相談がくるんでしょうか?

土田 「よほど切羽詰まってるのかな?」と思わせられるような長文がLINEで来たり、「お忙しいでしょうから、電話番号を入れておくので、ヒマなときに連絡ください」とか言われることもありますね。そういうときは、「だったらご飯を食べに行こうよ」と誘います。深刻な悩みであればあるほど、直接会ったほうが話も早いですからね。

— 本のなかでも「とっつきにくい上司とどう付き合うべきか」とか「人生に対してやる気がでないけどどうしたらいいか」とか、結構真剣な相談が寄せられていることが多いですよね。

土田 でも、そもそもの大前提で言うと、この本僕書いてないんですよ。単に僕は、しゃべっただけですから。それをまとめてもらっただけです。

— しかも、冒頭のまえがきに「この本、自分では買わない」って書かれていますよね……(笑)。

土田 買わないですね! いらないです。こんな本、買うやつの気がしれないですよ。この間、うちの後輩も、僕のご機嫌取りに来たのか「あの本、読ませていただきましたー」と言われたんですけど、「あ、オレは書いてないけどね」って言ってやりました。「それ、詐欺じゃないですか!」って言うから、「いや、俺は書いてないって全面的に言っているから」って言っておきましたけど。

— 土田さんらしい辛口な感じですね!

土田 最近もやたら本の取材が来るけど、どの取材でも言ってますよ? 僕は原稿を一文字も書いていないし、実際に本も読んでもいない。面倒くさいからゲラチェックもしてません!

— え! 自分の名前で出る以上、間違ったことが書いてないかとか、心配になりませんか?

土田 まぁ、僕が僕の考えを語っている本ですから、言ってしまえば、なにかミスったとしても僕のほうに苦情が来ますからね。いいんです。ただ、これが他人に迷惑が及ぶことだったら、もちろん僕だってしっかりチェックしますよ? 以前もガンダムについての記事を取材されて、そのときは事実関係が間違っていると他人に迷惑がかかってしまうので、ものすごく調べました。すごく大変でしたね。

— 「自分のことを正しく知ってもらいたい!」とかは、あまり思われないんですね。

土田 他人が僕のことをどう思おうと知ったこっちゃないし、別に知ってもらおうなんて思わないですし。

— そういえば本にも「自分が思っているほど、他人は人のことを気にしていない。だから気にする必要はない」って書いてらっしゃいましたよね。

土田 後輩が番組に出たときに「うまくいかなかった」といってはよくへこんでるんですよ。でも、そういうときは「話題になるのは次の日だけで、その次の日には誰もそんな話してない。気にすることないよ」といってあげます。ただ、それって、逆に「その日の番組でウケた」って喜んでいてもダメっていうことなんですけど。良い評判であっても、結局、その次の日限りのもの。だから、僕は、世間の声なんてどうでもいいんですよ。

なにもわからない素人に言われたことは気にしない。

— 土田さんって、相当さばけている性格ですね。

土田 だって、世間の声なんて気にしていたらこの仕事やってられないじゃないですか? だから僕はツイッターとかFacebookをやっている人の気がしれないですね。他人とつながりたいとも思わないですし。「知らないやつとつながって何になるんだ?」って思います。

— ネットの悪口とかも気になりませんか?

土田 なんとも思いませんね。逆に、褒められてもなんとも思わないです。僕の場合、「あの番組では面白くやれたな」とか「トークが上手くできたぞ」とかっていう仕事の良し悪しは、全部自分で判断するので。だから、ネットで悪口書かれたとしてもなんとも思いませんね。そもそもネットを見ませんけど(笑)。

— なるほど。自分を持っている人にしか言えないセリフですね!

土田 あとは、自分の好きな先輩とかの意見は聞きますよ。例えば、さんまさんに「この間の番組、アカンかったぞ」って言われたら、「そうか」って思うし。そういうときは「どの辺がやばかったですか?」とか聞きます。そうすると、いろいろアドバイスくれたりとかしますしね。ほかにも、今田耕司さんに「あの番組おもしろかったぞ」って言ってもらったらやっぱりうれしいですね。逆にダチョウ倶楽部のメンバーになにか言われても1ミリも響かないですね(笑)。

— あははは。

土田 要は自分が「すごい」って思っている先輩たちの話は聞けるけど、それ以外の人はほめられても悪口を言われても、どうでもいいんですよ。あとは、自分で判断していますので。

僕のテクニックは、「使えるところだけ」使って欲しい

— 確かに、土田さんも本のなかで「使えるところだけ使ってくれ」と書いてましたが、最終的には「自分で判断する」っていうことは一番大切なのかな、と思いました。

土田 そうですね。この本に書かれていることは「仮に自分がこのシチュエーションに置かれたらどうする?」という設定の上で話をしてますから。「僕だったらこうしますよ」とは言うことはできるけど、だからってその人が、僕が紹介したテクニックを上手に使えるかと言われたら、そこは疑問なんです。だって、僕とはこれまで生まれ育ってきた環境も違うし、踏んできた場数も違うし、性格も違いますから。だからこそ、「こんな本を読む人の気がしれない」って僕は思っているんです。

— そうですよね。冷静に考えたら悩み相談系の本って、たくさんありますけど、結局は万人に当てはまるようなテクニックなんて、ないですよね……。

土田 そうですよ。この本のなかでもいろいろ紹介してますけど、絶対に全部が全部万人に当てはまるわけがないんです。でも、この中で2~3個くらいなにかその人の気持ちに引っかかるものがあって、それが多少役に立つのだったら、それでいいと思います。

— ある意味、まえがきで事前に著者がそういう風に書いているというのは、ものすごく誠実な本ですよね。だからこそ、話題になってるのかもしれないですが。

土田 まあ、この本が売れようが売れまいが、僕は知ったこっちゃないですから。だからこの本の取材は毎回こんな感じです。この間もDAIGOがこの本の告知で楽屋にロケに来てくれたのですが、「俺、書いてないからわからない」って言ったせいで、ずーっと本とは全然関係ない話をしてましたからね。ずっとDAIGOも苦笑いだったし、1回も決め台詞の「ウィッシュ!」も言わなかったですからね(笑)。

テレビに出ている人は、誰もが「人気商売」とは限らない

— ただ、テレビに出ている方ってイメージや好感度って大事じゃないですか。「あまりにさばけた発言をし過ぎると、好感度が下がるんじゃないか」って気にされている方も多いと思うんですが、土田さんは気にならないんですか?

土田 うーん、まぁ、僕は自分のことは人気商売じゃないって思っていますからね。テレビ出ている人って基本的に誰でも、「商品価値」があるから呼ばれると思うんですよ。それは、人気とは関係ないものも多いと思うんです。

— といいますと?

土田 たとえば、「この人が出ているから観ようか」っていう人。それは、いま旬の女性タレントさんや、ブレイクしたての芸人さんのような人たちは「みんなをひきつける人」なんですよ。でも、あの人たちだけだとうまくできないこともあるかもしれないから、それをフォローするのが僕のポジションだったりするんだと思っています。

— あくまで、サポート役である……と。

土田 そうですね。僕に仕事があるのは、僕に対して「番組をちゃんと成立させてほしい」「番組をちゃんと円滑に裏で回して欲しい」と思ってくれる人たちがいるからなんですよ。だから、僕は人気商売じゃないんです。

— 今回の本でも書かれていましたが、自分のポジションを理解することも人生を生きやすくするコツなんですかね。

土田 そうですね。自分のなかにルールを持っておくんです。僕は法律のことはくわしくはわからないですが、自分のルールだけはしっかり持っていますから。そして、そのルールに対しては厳しいですよ。

— そのルールはどうやって見つければいいんですか?

土田 自分で見つけるものですよね。正直、ハウツー本とかに頼ってちゃダメですよ。手っ取り早く本を読んで手に入れようと思っても、見つけられるものじゃないです。それに、最初にも言いましたけど、僕と同じことをしたってうまくいくとは限らない。
 ただ、僕には資格や学歴などはなかったけど、若い頃から根拠のない自信だけはあったんですよね。笑いだけは取ってやる、と。この本のなかで僕がしゃべっているのは、そうやって「頼れるものは自分だけだ」って思って生きてきたからこそ、得られたものですから。
 まぁ、本のインタビューなのに、身も蓋もないことを言っちゃってますけど(笑)。

—そんな土田さんのスタンスが、この本では学べるのかな、という気はしますね。


次回「行きたくない飲み会で時間と精神力を浪費するぐらいなら、仕事しろ!」は、6/17更新予定

土田晃之(つちだ・てるゆき)

1972年生まれ。埼玉県出身。お笑いコンビ「U-turn」解散後、ピン芸人としてさまざまな番組で活躍。ガンダムからサッカー、家電まで、さまざまな分野に造詣が深く、老若男女から幅広い支持を集めている。また、三男一女の父親である。レギュラー番組に『そうだ旅に行こう』(TX)、『バイキング』(CX)、『ジョブチューン』(TBS)など。また、ラジオ番組『日曜のへそ』(LF)などのラジオ番組も担当。

構成:神田桂一 写真:小島マサヒロ


納得させる話力
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書いた人に聞いてみた。

cakes編集部

いま世間で響いているおもしろい本、素敵な本。その本を書いた人に、じっくりとお話を聞いてみます。

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コメント

hazkkoi "「頼れるものは自分だけだ」って思って生きてきたからこそ、得られたものですから" 4年弱前 replyretweetfavorite

yasutaketin 「芸能人にも人気以外の商品価値がある」か。面白い。 4年弱前 replyretweetfavorite

restart20141201 この記事の中だけでも、至言てんこもり。 4年弱前 replyretweetfavorite

abm "一文字も書いていないし、実際に本も読んでもいない。面倒くさいからゲラチェックもしてません"> 4年弱前 replyretweetfavorite