どれから読んでもいいという前提で作られている短篇集もあるかもしれないが、本書は最初から順を追って読むべきだろう。ケン・リュウの日本オリジナル短篇集でありかつ本邦初紹介短篇集である本書はそういう短篇集である。全体で一つの作品になっているといってもいい。ネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞を史上初めて同時受賞した巻頭の表題作と「もののあはれ」で感情を強く揺さぶられたあとは、リュウ版『高い城の男』と呼ぶべき「太平洋横断海底トンネル小史」、個人が一人も登場しない「選抜宇宙種族の本づくり習性」、永遠の命を扱う「円弧」と「波」と、予想もつかない短篇を次々と読んでは感嘆することになろう。
新しい英語圏SFに詳しい人たちのあいだで最初にケン・リュウが話題になったのは、2011年発表の短篇「結縄」だった。翌年六月の「良い狩りを」も評判がよく、私もそんな話題に誘われるように読み、Twitterで「意外な方向転換と結末は面白い。きつねうどんかと思ったら蒸しパンだったみたいな」などと書いたところ、著者から面白いというコメントがついて仰天したのだった。
本書を読んで、改めて作品の主題や趣向の幅広さを強く感じた。Twitter上でおこなわれた、訳者の古沢嘉通氏による本書刊行記念のサイン入り折り紙プレゼント企画で「応募者は気に入った三作品を挙げてくれ」というものがあったのだが、選ばれる作品がすべて同じというのは極めて稀であったことから、本書に収録された作品がどれほど幅広い読者の好みを捉える力を持っているか、そして、その作品を選び日本語に訳した編訳者の仕事が如何に見事だったのかを推し量ることができる。
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