本」がなくても死ぬことはない。しかし……

注目の経営者(ライフネット生命)にして、稀代の読書家としても知られている出口治明さんによる『本の「使い方」』。本とは「何か」? 本の「選び方」は? 本の「読み方」「活かし方」は? その本質的な部分を、深く、やさしく解説していきます。連載1回目の今回は「はじめに」より、そもそも読書とは何かに対する、出口さんの考えをご紹介します。 (構成/KADOKAWA編集部 編集協力/藤吉豊)

人は「ごはんを食べる」だけでは満足できない動物

 物心がついた頃(幼稚園の頃)から、私は本の虫です。
 ライフネット生命(※現在著者が会長を務める)を立ち上げて多忙になってからも、平均すると、おそらく週に3~4冊は読んでいると思います。もっともたくさん本を読んでいた頃は、毎週10冊以上読んでいました。

 私にとって、就寝前に1時間本を読むことは、歯磨きをするのと同じくらい、当たり前の習慣になっています。
 どうして私が本を読むのかといえば、

 「おもしろいから」

 としか、答えようがありません。良質な本に出会うと、私は心が沸き立ちます。書評ブログを書き始めたのも、きっかけはライフネット生命のスタッフのすすめですが、「この本のおもしろさを、人にしゃべらずにはいられない!」という気持ちも働いています。


 中国古代の政治論集『管子』には、「衣食足りて礼節を知る」という趣旨の言葉が書かれています。
 衣服と食べ物(と寝ぐら)は生活する上での根本ですから、人間が第一に考えるのは、「どうしたら、ごはんを食べていけるか」ということです。
 しかし、人間には他の動物と違って、大きな頭がある。だから、ごはんを食べるだけでは満足できません。聖書にあるように、「人はパンのみにて生くるものにあらず」です。

 「異性の腕の中」にいるより楽しいこと

 衣食が満たされたら、心にもゆとりができます。そして、パン以外のものを求め始める。そのひとつが「知的好奇心」です。

 アラブには、次のようなことわざがあります。

「(人生の)楽しみは、馬の背の上、本の中、そして女の腕の中」

 女性と時間をともにするより、本のほうが、楽しい。このことわざは、言い得て妙です。読書の楽しさを伝える至言だと思います。
 砂漠のアラブの戦士にとって、馬は生活の手段であるばかりではなく、誇りと栄誉の象徴です。ですから、馬の背の上に座ること(馬を上手に扱うこと)は、何よりも楽しい。そして2番目が「本」で、3番目が「女性」。「本」が「女性」よりも上位にくるのは、本が知的好奇心を満たしてくれるからでしょう。

 知的好奇心を満たすことは、人生の醍醐味である。そう考えたアラブ人に、私も共感を覚えます。キリスト教の長期間にわたる焚書(異教の思想を弾圧するために書物を焼き捨てること)にもかかわらず、ギリシャやローマの古典が生き残ったのは、イスラーム世界で大切に保存されていたからです。
 つまり、アラブ人が異常な「本好き」だったからなのです。

 私にとって読書は、食卓に並ぶ「おいしいおかず」のようなイメージです。
 パンやお米だけでも、最低限の食欲を満たすことはできます。しかし、食卓に「おいしいおかず」が並んだとき、食事の時間は、もっと豊かで、もっと楽しい時間に変わります。
 本がなくても死ぬことはありません。でも、本がなかったら、人生を楽しむことはできないでしょう。少なくとも私はそう思います。

 「価値観の押しつけ」ほどつまらないものはない

 読書好きの私が、どのように本と向き合っているのか。私が思う「本のおもしろさ」とは何か……。本書は、小さい頃から本と一緒に育ってきた、私なりの個人的な読書論です。
 幼少期から今日までを振り返りながら、「読書のおもしろさ」や「読書の有用性」について、ひも解いてみようと思います。
 といっても、「本はかくあるべきもの!」「本はこう読め!」などと押し付けるつもりは毛頭ありません。およそ価値観の押しつけほどつまらないものはありません。

 本の読み方には個性があっていいし、その個性もまた、読書の楽しみ方のひとつだと思うからです。
 みなさんに少しでも「本のおもしろさ」が伝われば、著者としてこれほど嬉しいことはありません。

次回【花の名を一つ知れば、世界の謎が一つ消える】は6/10(水)更新予定です。


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本の「使い方」  1万冊を血肉にした方法

角川新書

この連載について

本の「使い方」

出口治明

注目の経営者(ライフネット生命)にして、稀代の読書家としても知られている出口治明さん。出口さんは物心ついた頃から数えると、これまでに概算1万冊以上の本を丁寧に読み、そして、それを自分の血肉にしています。それがときに、現実社会を生き、働...もっと読む

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コメント

hazkkoi 「(人生の)楽しみは、馬の背の上、本の中、そして女の腕の中」 約4年前 replyretweetfavorite

birdschool 今日我が家にKindle Voyageが来ました。「(人生の)楽しみは、馬の背の上、本の中、そして女の腕の中」 約4年前 replyretweetfavorite

rhiroko // ――”「本はかくあるべきもの!」「本はこう読め!」などと押し付けるつもりは毛頭ありません。およそ価値観の押しつけほどつまらないものはありません。 ” 約4年前 replyretweetfavorite

CaetanoTCoimbra |本の「使い方」|出口治明|cakes(ケイクス) ライフネット生命は本業よりも、自己啓発関係のほうで注目を浴びてるんじゃないか。 https://t.co/rtu9lV88JI 約4年前 replyretweetfavorite