『メイズ・ランナー』は、英語圏の10代読者層へ向けて書かれた、いわゆる「ヤングアダルト小説」の映画化である。『トワイライト〜初恋〜』(’08)や『ハンガー・ゲーム』(’12)など、近年ヤングアダルト小説を原作とする映画は増えてきており、『メイズ・ランナー』もその流れにある作品のひとつだ。
物語の中心となる場所は、高くそびえ立つ壁に囲まれた奇妙な閉鎖空間である。その場所にいるのはすべて少年であり、何者かによって強制的に連れてこられた。この現実離れした空間はいったい何のために作られたのか、月に一度送られてくる生活物資は誰が準備しているのかなど、彼らにはいっさい何も知らされない。この空間に送り込まれる前にあらかじめ記憶を消された少年たちは、かつてどこで何をしていたのかも思いだせないまま暮らしているが、隔離された空間に監禁されつづける不満は消えることがない。壁の外側には迷路があり、数名のランナーが協力しあいつつ、その構造を調べているが、まだ解明にはいたっていない。不当に閉じ込められた少年たちは、外の世界へ抜けだす唯一の可能性である「迷路(メイズ)」の秘密を解明し、脱出を試みようとする。
観客へ謎を提示するタイプの映画を見るたび、このまま最後まで謎を解いてほしくないとおもう。謎が何なのかわからないまま終わってほしい、と本末転倒なことを考えてしまうのだ。すぐれた謎には、種明かしどなくとも観客を満足させる魅惑がある。『メイズ・ランナー』のユニークさもまた、最初に提示される謎のインパクトが大きいといえる。閉鎖空間にとらわれた少年たちが、独自に作りあげたルールや隠語。住人たちのしきたり、独特のグループ分け、そして壁の向こう側に存在する生物についてのうわさ。さらには劇中、つねにつきまとう「どこの誰が、何のためにこの場所を作ったのか」という究極の問い。こうした細部は想像力を刺激するスリルがあり、いったい何が真相なのか皆目見当がつかない不穏な空気にも胸が躍る。サスペンスやミステリを支えるのは「情報が不足していることの快楽」だとつくづくおもう。理解不能な空間に、何の脈絡もないまま放りだされる体験を主人公と共有する時点で、われわれ観客は大きな満足を覚えているのだ。
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