もしも海水をすべて排水したら?

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【おことわり】 ここに書かれている内容をご自分で実際にお試しにならないようお願いします。本文に含まれる情報から、直接もしくは間接的に生じた損害に関しては、それがいかなるものであろうと、出版社、著者ともに責任を負いかねます。


Q.

地球の海で最も深いマリアナ海溝の最深部、チャレンジャー海淵の底に、宇宙までつながっている半径10メートルの円形の排水口を作ったとすると、地球の海から水を抜くのにどれくらいの時間がかかりますか? 水が抜かれていくにつれて、地球はどのように変化しますか? ──テッド・M


A.

最初に、ひとつ片付けておきたいことがある。

私がざっと計算したところ、航空母艦が沈没して、この排水口にはまったとすると、そのときの圧力で航空母艦は二つ折りになって吸い込まれて流されてしまうことがわかった。すごいね。

問題は、この排水口がいったいどこまでつながっているのかだ。吐き出し口が地球の近くにあると、抜かれた海の水はすぐに落ちて大気の中に戻ってきてしまうだろう。海水は落下しながらだんだん熱くなり、水蒸気になる。この水蒸気はやがて凝集して雨となり、元の海へと降り注ぐ。これによって大気に流入するエネルギーだけでも、地球の気候にあらゆる種類の大異変をもたらすだろう。上空の高いところに水蒸気の巨大な雲ができたときと同じように。

そこで、海水の吐き出し口は遠くに設置しよう。たとえば火星などだ(実のところ、私は火星ローバー、キュリオシティの真上に設置するのがいいと思う。そうすればキュリオシティが、火星の表面に水が存在するという疑問の余地のない証拠をついに手に入れられるだろうから)。

では、海水がなくなっていくにつれ、地球はどんなことになるだろう?

劇的な変化はない。じつのところ、海の水を完全に抜くには数十万年がかかるのだ。

排水口がバスケットボールのコートよりも大きく、水はものすごいスピードでいやおうなしに流されていくとはいえ、海は広い。抜き始めは、水位は1日あたり1センチメートルも下がらないだろう。

海面に壮観な渦ができることもないだろう。排水口は小さすぎるし、海は深すぎる(浴槽の場合でも水が半分以上抜けないと渦ができないが、それはこの深さの条件による)。

ここはともかく、排水口*1を増やしたかなにかで早く水が抜けたということにしておこう。

さて、地図はどんなふうに変化するだろう?

これが抜き始めの状態だ。

そしてこれが、海面が50メートル下がったときの地図だ。

あまり違いはないが、小さな変化がいくつか起こっている。スリランカ、ニューギニア、イギリス、ジャワ、そしてボルネオは、近くの陸とつながってしまっている。

そして、2000年にわたって国土が海の下に沈まないよう苦労してきたオランダは、ついに標高が高くなり、水害から解放される。絶えず大洪水を警戒しながら暮らす必要がなくなったオランダ人たちは、国土拡張にエネルギーを振り向けられるようになる。彼らは即座に勢力を広げ、新たにできた陸の所有権を主張する。

海水位がマイナス100メートルに達すると、ノヴァスコシアの沖、以前グランド・バンクスがあったあたりに巨大な新しい島が現れる。

このあたりで妙だと思う人が出てくるかもしれない。すべての海が縮んでいるわけではないのだ。たとえば黒海は、ほんの少し縮小するだけで、その後は大きさは変わらない。

その理由は、これら元々内海だったものが、外洋とのつながりを失ってしまったことにある。海水位が下がるにつれ、内海の多くは太平洋にある排水口から切り離されるのだ。海底の詳細な形状によっては、内海からの水流が侵食を進めて従来よりも深い流路が形成され、水が流れ出ることもあるだろう。しかしたいていの場合、内海はやがて完全に陸地に囲まれてしまい、海水の流出は止まるだろう。

海水位が200メートル下がると、地図は見た目に妙になってくる。新しい島がたくさんできている。インドネシアはもはや島国ではなく大きな陸の塊だ。オランダは今やヨーロッパの大部分を支配している。

日本は朝鮮半島とロシアにつながる地峡になっている。ニュージーランドには新しい島がいくつもできている。オランダは北に拡張している。

ニュージーランドは驚くほど大きくなる。北極海は切り離され、水位の低下が止まる。オランダは新しい地峡を渡って北米大陸に侵入しはじめる。

海面は2キロメートルも下がった。あちこちに新しい島が出現している。カリブ海とメキシコ湾は大西洋から切り離されようとしている。ニュージーランドがどうなっているのかは、もうまったくわからない。

海面が3キロメートル下がると、中央海嶺の先端があちこちで海面から姿を現す。中央海嶺とは、海底に形成されている山脈のような地形のなかでも特に大規模なものを指し、実際、地球で最も長い山脈だ。でこぼこした広大な陸地がいくつも出現する。

ここまでくるあいだに、主な海のほとんどはほかの海とのつながりを失い、水の減少も止まっている。このときそれぞれの内海がどこに存在し、その大きさはどれくらいかについては、正確に予測するのは難しい。この図はおおまかな推測にすぎない。

排水が完了したときの地図がこれだ。意外なほどの量の水がまだのこっている。ただし、その大部分は極めて浅い海であり、水深4、5キロメートルの海溝が2、3あるだけだ。

海の半分が空っぽになれば、気象と生態系には予測困難な大規模変化が起こるだろう。少なくとも、あらゆるレベルで生物圏が崩壊し、大量絶滅が生じることだけはほぼ確実だ。

しかし、ありそうもないこととはいえ、人間がかろうじて生き残る可能性はある。もしもそうなるなら、きっとそこはこんな世界なのだ。



*次回掲載は7月1日(水)の予定です。


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*1 2~3日おきに管詰まり防止のヒゲクジラ・フィルターを掃除することをお忘れなく。

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コメント

Khovtoliv 1件のコメント https://t.co/d0sNMIfwn4 約3年前 replyretweetfavorite

Khovtoliv 1件のコメント https://t.co/d0sNMIfwn4 約3年前 replyretweetfavorite

Tagnie_0621 オランダの事バカにしすぎデショ笑 5年弱前 replyretweetfavorite

haraguci これはたいへんおもしろい!: 約5年前 replyretweetfavorite