小島慶子「女子アナ以前に、どうして私は女を脱げないのか?」

「アイドルアナにはなれなかった」という言葉を残してTBSを去ったのが2010年のこと。退社後も、ラジオやエッセイでの熱くストレートな発言はもちろん、39歳にしてグラビア写真集に挑戦するなど、常に話題を集めてきた小島慶子さん。初の小説『わたしの神様』は、これまでの彼女の人生や経験や思考を反映させた、見事なエンタテインメント作品です。小説にこめたものとは? 彼女が人生の中で大切にしていることとは?

小島慶子がいま輝いている3つの理由

自由な“生き方”!
「アイドルアナウンサーにはなれなかった」との名言を残してTBSを去った後、男性週刊誌で39歳・2児の母として異例の水着グラビアを発表したり、赤裸々な自伝を出版したり、仕事をやめた夫とオーストラリアに移住したり。自由な生き方を貫いています!

切れ味の鋭い話術!
局アナとして活躍中から、テレビ以上にラジオや生のイベントなどで光るトーク力は、切れ味が鋭いと評判。それは彼女自身が覚悟をもって自分をさらけ出し、対話することに情熱をかけているから!

初小説は振り切ったエンタメ!
小説『わたしの神様』は、各界から絶賛されているエンタメ小説。女子アナだった自身の経験と、観察力を活かして得た知見を潔く、おしみなく盛り込んでいるから、単におもしろいだけじゃない、刺さる小説になっています。

「女子アナってどんなセックスするの?」

— テレビ業界を舞台に、女子アナたちの愛憎が描かれた処女作『わたしの神様』、素晴らしいエンタテインメント小説でした。とても初めて書かれた小説とは思えません。小島さんの人生やラジオやエッセイで発信していた思いの集大成がエンタテインメント作品に昇華されているなと。

小島慶子(以下、小島) ありがとうございます。何しろ小説を書いたことがなかったですし、自分ではいまだに「これって小説というものなんだろうか。これで良かったのかな?」という心境です。

— 小島さん自身ってどんな女子アナだったんですか?

小島 わたしは「視聴者に好かれれば、大嫌いな自分を好きになれるかもしれない」という幻想と期待を持って、女子アナという職についたものの、視聴者の求めるアイドル的な可愛げのある女子アナとは程遠かったですね(笑)。

— そうなんですか。

小島 お茶の間の人たちが見たい新人女子アナって、初々しくて可愛らしくて……という像だと思うんですけど。私は、派手な顔立ちの新人らしからぬ生意気そうな容姿だし、可愛い振る舞いが何かもわからなかったから(笑)。テレビに出ても、どうもうまく行かないと思ってました。

— 小説ではその違和感や葛藤が遺憾なく発揮されていますね。すごくリアリティがあるし、ディープだなと。正直、フィクションとはいえ、よくぞここまで書けたなとも思いました。本を読んでドキッとするプロデューサーとかいるんじゃないかなと(笑)。

小島  ここまであからさまな人は、実在しないですけどね(笑)。誰もが少なからず持っている嫌らしさやズルさみたいなものにドキッとする人はいるかもしれない。

— 小島さん自身が元女子アナでありながら、ストレートに女子アナの話を書こうと思ったのはなぜですか?

小島 この小説は、もともとファッション誌にお声がけいただいて始まった連載小説だったんですね。私に書けるだろうか?と思ったけれど、そんなチャンスはたぶん一生に一度だろうし、よし書いてみよう!と。そこで考えたんですよ。ファッション誌で、読者と同世代の元女子アナタレントが小説の連載を始めたら、どんな気持ちで読むのかな? たぶん、わりと意地悪な気持ちで読むんじゃないかなって(笑)。

— なるほど(笑)。

小島 私が読者ならそう。「またまた、勘違いしちゃって!」「元女子アナあるある~!」って思いながら読むから。そこで、「文学を志してます」みたいなものが出てきたら読む気を失くしちゃうし、そもそも書けない。私に書けるものを書こう。せっかくなら読者が読みたくなるものを書こうって考えてみると、元女子アナのタレントが書く話で世間が読みたいのは、おそらく女子アナの話だろうなと。

— はい。

小島 女子アナ経験者にしか書けないこともありますしね。それから、私の性悪な部分が小説で暴露されることも期待されているだろうから、そこに肩透かしを食らわせず、ガッと受け止めて、お釣りをつけて返そう!みたいな気持ちで書きました(笑)。

— 素晴らしい客観性とサービス精神(笑)。

小島 だから、この物語は私の経験と妄想だけじゃない。みなさんの中に既にある「女子アナってこうに違いない」という期待や妄想も合わさって生まれたものです。私がすべてを説明しなくても、それぞれに女子アナのイメージ映像があるはずだから。……つまり、それってけっこうゲスい妄想だと思うんです。「女子アナってどんなセックスするんだろう」「きっと仕事の取りあいしているんだろう」とかね(笑)。

— (笑)。

小島 下品な想像って誰もがするし、そういう想像をかき立てやすいのが“女子アナ”っていう存在だと思う。会社員という守られた立場にありながら、タレントのようにチヤホヤもされて。容姿端麗、品行方正で優等生ぶっているけれど、実は欲望をひた隠しにしているに違いないというイメージ。「あいつらはあざとい!」っていう(笑)。

美醜で判断されてしまう女の生きづらさ

— 本作は、「女性という性の生きづらさ」がテーマのひとつですよね。結婚・出産や子育てという宿題と向き合いながら、仕事をしていくことの難しさ。社会においては、自分の女性であることを武器にするのもキツいし、かといって、女性であることに抗っても生きづらい。女性にとっては普遍的なテーマですけど、「女子アナ」を切り口にすることで、こんなにも鮮やかに問題の本質が浮かび上がるんだなと。

小島 ありがとうございます。

— “女性の生きづらさ”や社会への問題意識っていうのは、いつから持っていたんですか?

小島 「女子アナ」として働く以前から、「この体を選んで生まれてきたわけじゃない」という思いはありました。もちろん誰もが自分で選んだわけではない体や性別を生きなくてはならない。それに加えて、世間からの“女はかくあるべし”、“あなたはきっとこうに違いない”みたいなメッセージも浴び続けるわけですよね。それで「何で私は女を脱げないんだろう?」という生きづらさや疑問をずっと持っていたんです。

— 性別や外見によって他者に選別・評価されるというのは、男性よりも女性の方がより強い宿命なんですかね?

小島 それこそ、知人が赤ちゃんを産んでお披露目する時、男の子だったらどんな容姿でも「可愛いね!」で終わるのに、女の子だったら「残念だったね」って言われたりするじゃないですか? さすがに母親に直接言わないけど、後で女同士、「ダンナさんに似ちゃったのかな」なんて言いあったりする(笑)。

— ああ、「あるある」話ですねぇ(笑)。

小島 あの残酷さったら! 女は生まれた瞬間から美醜で測られてしまうっていう。ずっとそれは、理不尽で面倒なことだと思っていました。それでも、私は私という体を脱げないから、どうにか自分と仲良くしようと思って、女性としての身づくろいとかもがんばってみましたけどね……。がんばるほど、余計に捕らわれ、絡めとられていく。

— そこは実は悪循環ですね。

小島 美人もブスも自分で選んだ容姿じゃないのに、その見た目で周囲に判断され、「あなたはこんな人に違いない」的な偏見に巻き込まれていくから、女性は生きるのがますます苦しいんだと思います。でも、私だって他人にそんな目を向ける側でもある。

— 冷静に客観視しているんですね。

小島 そこは、放送局のアナウンサーという仕事に就いてから明確になりましたね。自分が商品化されたことによって、商品に対する需要、つまり見る者の欲望に気がついた。世の中には「女子アナ」という記号化された女への幻想や偏見が渦巻いていて、それがビジネスになっているんだと。実際私はその立場で給与収入を得ていましたし。他者の欲望が「女子アナ」というロールを演じる女性を輝かせたり、逆に追いつめたりするんだな、これってなんだろうなと。実は、それってテレビ業界みたいないわゆる光の当たる場所だけの話じゃない。女性であるがゆえに容姿や役割で測られる理不尽さ、シンドさって、大人の女性なら誰だって味わっているんじゃないですかね?

— 一般企業でもバイト先でも学校でも、ほとんどの女性が味わっていると思います。

小島 女子アナは、それ自体が商売になっているからまだいいけれど。つまり栄誉やお金で報われるなら割り切って自分を商品化できる。けどそうではない場所なのに、美醜や性別などの本人が選べなかったものを他者が値踏みするヒエラルキーの中で生きるのは、すごくキツいと思う。

愛される女子アナになれたら、自分を好きになれる?

— 小説の中に、「女子アナっていう職業は、コスプレしているようなもの」というようなルイのセリフがありますよね。あれも女子アナ以外の異業種の女性にアテはまるなと。職場で生きやすいように、人が求める理想の女性のコスプレをしている女性って少なくないと思います。

小島 そうですよね。彼氏の前と家族の前と女子の前では、それぞれ違う女のコスプレをしていたりする。そのボリュームのツマミを全開にして視聴者に見せているのが“女子アナ”であると私はとらえていました。女子アナは、テレビを観ている方々の欲望を最大化してコスプレしている存在である、と。

— そこには、いつ気付かれたんですか?  テレビ局に入社する前はそんなこと思いもしなかったですよね?

小島 もちろん! だって、採用試験では、7回も面接があったんですよ! 「あなたはどんな人? 何が好きなの? 何に熱中してきたの?」というような、母親からも得られらなかった問いをたくさん投げかけてもらえて、私はそれに本気で全力で答えた。その上で、3000、4000人くらいが受けた中、たった3人に私を選んでくれたんだから。私のすべてを理解した上で、そのすべてが欲しいといってくれたんだろうと思っていました。

— なるほど。

小島 それに加えて注目にさらされることによって、もし、「小島アナ大好き!」って、視聴者に言ってもらえたなら。私は“小島慶子”が大嫌いだけど、“みんなに好かれる小島慶子”だったら、まぁ、一緒にいてやってもいいかっていう気持ちもあったから。あの職業を選んだところもあります。

— 自己承認欲求とかコンプレックスとか、いろんなものを解消して満たしたかったんですね。

小島 ありのままの私を知って受け入れてもらえたという幻想と、多くの人に好かれれば自分を好きになれるかもっていう期待でいっぱいでした。まぁ、実際はそんな仕事じゃない。……っていうか、仕事ってそんなものじゃないんですけどね(笑)。


次回「『わたしにはブスの気持ちがわからない』という正義」6/16公開予定

小島慶子(こじま・けいこ)

1972年オーストラリア生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。アナウンサーとしてテレビ・ラジオに出演。1999年第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞を受賞。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に『女たちの武装解除』 『解縛(げばく)〜しんどい親から自由になる』などがある。

構成:芳麗 撮影:加藤麻希


描かれることのなかった“女子アナ”たちの強烈な嫉妬と執着と野心に、ページをめくる手が止まらない。一気読み必至の極上エンタメ小説。好評発売中です!

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いま輝いているひと。

cakes編集部

あの人は、どうして輝いているのか。いま目が離せないあの人に、たっぷりお話を伺います。

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コメント

myomiiii 美醜で「生きやすさ」は左右されるとおもう。お願いだから、まわりのひとに「ブス」と吐き捨てるのはやめてください。 4年弱前 replyretweetfavorite

sonoko0511 女性は見た目で〜のくだりが気になる。男性も同じだと思うんだよね。 4年弱前 replyretweetfavorite

kabothomas 「下品な想像って誰もがするし、そういう想像をかき立てやすいのが“女子アナ”っていう存在」 4年弱前 replyretweetfavorite

AmataniH この世代(アラフォー)のキャリアのある女性って、私たちの世代(アラサー)より社会に対する憤りが強い印象がある。美醜問題然り。 4年弱前 replyretweetfavorite