ナマケモノから学ぶべきことは「平和」

ナマケモノから学んだことは「必要なもの以上は要らない」ということ。ナマケモノは多くを求めないから、他者と争うことなく、仲良く共生できるのだ。人は求めるから争うことになる……。


ナマケモノの弱さに寄り添う

 ナマケモノになるためには、もちろん、ナマケモノのことをよく知らなければならない。そういう思いで中南米をあちこち旅していたぼくは、やがて、コスタリカのカリブ海側にある「アヴィアリオス・デル・カリベ」に行きついた。

 アメリカ出身のジュディ・アローヨさんとコスタリカ人の夫ルイスさんが開いた、世界初の、そしておそらく世界唯一の「ナマケモノ救護センター」を備えた民営の自然保護区だ。2人は民宿経営とエコツーリズムで生計をたて、ナマケモノ救護センターを運営しながら、野生動物保護や環境保全のメッセージを世界に発信している。

 アメリカのアラスカ州の豊かな自然の中で育ったジュディさんは、結婚してコスタリカに住むようになってからも、自然と共に生きることを人生のテーマとした。そんな彼女のところに、ナマケモノが次から次へと運び込まれるようになる。

 森の奥深く静かに暮らしているはずのナマケモノたちが、なぜこんなにたくさんここに運ばれてくるのか。これについて考えることを通して、ジュディさんには、開発とともに急激に進む生態系の破壊の実態がはっきりと見えるようになった。そして、自分がいつの間にかやっていたナマケモノの世話が、環境活動に他ならないのだと自覚するようになったという。

 まだ自分で枝にぶら下がるのが下手な幼いナマケモノが木から落ちて母親とはぐれる場合が多い。電線にひっかかって怪我をする場合もある。電柱は木でできているので、自然の木と間違えるらしい。それから、棲みかである森林を切りひらいてつくられる道路で、車にはねられるケースも少なくない。犬に襲われることもあれば、人間の子どもにおもちゃにされる場合もある。近隣の農場で使用される農薬の犠牲になるナマケモノも増えた。

 いつの間にか、ジュディさんは、負傷したり、みなし子になったりしたナマケモノたちの母親代わりになっていた。ナマケモノを育てている変人がいるという噂が広がって、次から次へとナマケモノが運び込まれるようになる。こうして、世界で初めての(そして多分今でもオンリー1の)、ナマケモノ救護センターが出現した。以来、多くのフタユビナマケモノとミツユビナマケモノがそこで傷を癒し、健康を取り戻し、いくつものカップルが繁殖に成功した。

 しかし、いくら救護活動がうまくいっても、施設のスペースには限りがある。そもそも、活動の目的は、ナマケモノを森に復帰させること。また、救っても救っても、さらに多くのナマケモノが運び込まれるのではきりがない。

 ジュディさんたちは、資金を集めて少しずつ保護区を広げる一方で、コスタリカの、そして、中南米全体の森林を守るための運動に加わった。多くのナマケモノが救護センターを巣立って野生に戻った。ジュディさんたちの今の目標は、アヴィアリオス保護区を世界の環境教育の拠点にすることだ。


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弱虫」でいいんだよ

辻信一

私たちの生きる世界では「終わりなき経済成長」をテーマに人々が邁進しています。それをこなすのは大変です。誰もが効率的に働かなければ世界が回らないと思い込んでいます。過剰な世界を支えるのは「強い人たち」です。健康で体が強く、より早く、より...もっと読む

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