1回で相手をよろめかせる言葉選び
アルファベットをいくつか並べ、「何の略ですか?」と問われてから答えるDAIGOの十八番のうち、最たる印象を残したのは「SF」だ。「SFにはお世話になったなあ」「何の略ですか?」「祖父」。北川景子との交際について、逆に報道陣から「KMD(結婚まだ)ですか?」と尋ねられるほどに浸透してきた略語だが、この魅力は「そんなものを略語にするなんて」という意外性よりもむしろ、実際の言葉よりも略語を優先して言いたくなるほどの響きの良さにある。
略語に限らず、この人の言葉選びは常に適確である。流れを断ち切る突拍子もないことを放つのは若手芸人が目立つためには必須だが、DAIGOは流れを断ち切らずに突拍子もない受け答えをする。与えられた1回の機会でこちらを確実によろめかせる、ハンターのように正確な話者である。好きな食べ物を問われて「じゃがいも」と即答するあき竹城に近い。
1パック1000円の塩鮭を買ったSF
彼のSFである元首相の竹下登は「言語明瞭、意味不明瞭」と揶揄されるほど、「言葉を尽くして語るのではなく、なるべく本音を語らないことで身を処してきた」(岩瀬達哉『われ万死に値す ドキュメント竹下登』)政治家だった。DAIGOは言語も意味も共に明瞭だが、本音を語らない芸風ではある。
竹下登は首相在任時に消費税3%を導入するも国民からの反感を抑え込むことができずに、導入からわずか3週間で辞任してしまう。その悪評を買う一因となったのが、導入当日に日本橋の三越に出向き、ネクタイ1本と3切れ1パックの塩鮭を2パック買ったこと。これが姑息なパフォーマンスだと受け取られたのだ。その値段はネクタイが15000円(消費税450円)、塩鮭が2パック2000円(消費税60円)。高からず安からず、「どちらかというと高め」程度のチョイスだとは思うが、そもそも不信感を持っていた国民の理解をますます遠ざけてしまった。
DAIGOのグラムロック路線を止めさせたT-BOLANの会社
消費税導入時に「おまえのおじいちゃんのせいで」と学友から罵られた話はDAIGOの口から何度も放たれているが、ふと考えると、彼は「育ちの良さ」を過去にだけ用意していることに気付く。育ちの良さは往々にして引き続くものだし、2世タレントが何不自由無い暮らしを今現在のものとして使うのに対して、DAIGOはある昔の地点に戻って、その場でのエピソードに終始する。育ちの良さが現在の自分に降りかからないよう、慎重になっているようにも思える。
彼はデビュー当初、DAIGO☆STARDUSTと名乗っていた。デヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』を露骨に意識したグラムロック路線だったわけだが、この名前ではダメだとDAIGOへの変更を申し出たのが移籍先のレコード会社だった。それが、T.REXとそのフロントマンであるマーク・ボランの名を無理やり結合した「T-BOLAN」という無理矢理なネーミングを成功させたビーインググループだったというのは興味深い。
「やらないと言ったらやらない。この顔が嘘つきの顔に見えますか」
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