“音”をめぐる事件簿でハードSF初挑戦! オキシタケヒコ『波の手紙が響くとき』刊行記念インタビュウ

この5月に《ハヤカワSFシリーズ Jコレクション》より刊行されたSF小説、『波の手紙が響くとき』。その著者であり、2011年よりSF作家としてデビューした新鋭・オキシタケヒコ氏へのインタビュウを掲載します。

—まずは改めまして、自己紹介からお願いします。

 オキシタケヒコと申します。長らくゲーム開発に携わってきたのですが、体を壊して現場を離れ、今は専門学校でゲーム企画について教えながら、SF小説をちまちま書いています。デビュー作は「What We Want」というスペオペ短篇で、2011年の第二回創元SF短編賞の最終選考に残ったものでした。翌年の第三回、料理SF「プロメテウスの晩餐」にて優秀賞を頂戴したことを機に、SF書きとして本格的な活動を始めました。以来〈SFマガジン〉にちょくちょくと短篇を発表させてもらいまして、今回の『波の手紙が響くとき』は、その掲載分の三話に、最終回として大ボリュームの中篇を書き下ろしで加えたものです。どうかお見知りおきくださいまし。



 あ、昨年末に小学館ガガガ文庫さんから、ライトノベル『筺底のエルピス -絶滅前線-』も出てます。こちらもバリバリのSFですので、よろしければ『波の手紙が響くとき』と合わせてぜひ(図々しく宣伝)。


—オキシさんに影響を与えたSF作家・作品について教えてください。

 はい、ではざっくりと。

 例えば、野尻抱介さんの《クレギオン》シリーズ。あの溢れるわくわく感に加え、マイクロメートル級の精度で削り出されたパーツ群が、組み合わさって完成した状態ではつるりとして肌触りのいいオブジェにしか見えない、という凄さ。つるつる読めてしまうので、立ち止まって技法の分析をするのも難しい。しかもデビュー作というのだからおしっこちびります。ちびらない方がおかしい。富士見ファンタジア版もハヤカワ文庫JA版も、小口が手垢で真っ黒になるまで読み返しました。

 また例えば、飛浩隆さんの短編「呪界のほとり」(『象られた力』収録)。読み進めている間、この魅力的な世界を愛すべき登場人物たちと共にもっともっと旅していたい、という幸せな思いがふつふつと湧いてきますが、一見軽やかな物語の芯には、狂おしいほどの「求め」がある。読書中が幸福だからこそ、小説の終わりと同時に、読者である自分だけがレンズフレームのこちら側に取り残されるという喪失感が襲ってきて、それが作品の芯に埋まっていた「求め」そのものとシンクロする。決して届かないことがわかってて、それでも手をのばし続ける希望の苦しみというか何というか、そんなモノを読後に、取り返しの付かないほどの強さで胸にねじ込まれた気がしました。ああわたし変えられちゃったわ、ぐすん、もう元の体には戻れないのね、的な。ショッカーの改造手術台です。おしっこちびります(ちびってばっかり)。

 というか、好きな作家、影響を受けた先人の数は、ほんと挙げるとキリがありませんです、はい。

本作『波の手紙が響くとき』は《武佐音研シリーズ》として、〈SFマガジン〉2013年2月号から始まりました。連載開始にあたってのお気持ちはどのようなものだったのでしょうか?

 なにしろ無名の新人ですので、作品で自分をプロモーションせねば、というセコい考えでいました。あと、自分にどんな適性があるかもわかってない状況でしたので、ひとまず色々挑戦してみようと。そして無謀にも「一回やってみたかったハードSFで行こう」と決めて書いたのが第一話です。よく完成したなぁと自分でも思います。ショボくないだろうか、自分のキャパを超えたものに挑んではいないか、そもそもまともな作品として完成させることができるのか、と、途中からはどんよりしながらキーを打ってました。

 その後も、ミステリ(第二話)、青春モノ(第三話)と、なるたけ毎回、自分にとっての「初」に挑戦したつもりです。それぞれ執筆時点でのベストを尽くした気ではおりますが、結果の出来については、読者の皆様に判断していただければと。


—本作では零細企業「武佐音響研究所」を舞台にさまざまな事件が描かれます。「音」とその認識方法をめぐるSF設定も全篇にわたって活かされていますが、この分野にご興味を持たれたきっかけは何ですか?

 興味は昔からぼんやりとあったのですが、強く意識したのは、友人とのとある一夜でした。ゲーム屋時代に一緒に仕事をしたサウンドデザイナの方なんですが、手料理を馳走するのと引替えに技術的なことを色々と教えてもらいまして。おお、これは本気で勉強すればいいネタになるなと。でも素養不足で理解が追いつかなかったり、諸々の理由で使えなかったネタも多々あります。物理に関するものはどれもそうだと思うのですが、数学がてんでダメな人間には、深みにまで下りることが叶いません。脳味噌の作りがもうちょっと理系寄りだったらなぁ、とよく思います。


—ゲームシナリオライターとしての経験から、原稿の執筆中にゲームと小説の違いを感じることはありますか? また、小説という音のないメディアで「音」を表現することに難しさはありましたか?

 コンピューターゲームにおいては、画面をどう見せるのか、キャラクターをどう動かすか、カメラをどう切り替えるのか等はすべて、デザイナと協議しながら処理を組み、あくまで映像として制作していくわけです。なので実際にテキストとして書くのは、台詞回しがほとんどなんですよね。地の文を書く、という経験がほぼ皆無だったため、そこに一番苦労したのを覚えてます。

 映画などと同じく、ゲームでは「画面」を出力先として、これだという現物をダイレクトに絵として見せられます。ところが小説の場合、アウトプットの先は「読者の頭の中」であって、その中で映像その他を補完して作り上げてもらう必要がありますから、その誘導をどうすべきか、最初は何もわからず戸惑いました。ページをめくっていく運動量も与えていかねばなりませんし、そのあたり、まだまだ勉強中です。

 音の表現は、頭で考えながら書いてもロクなことにはならない、とわかりました。むしろ頭はからっぽにして、手に勝手に書いてもらい、音読してリズムを確認し、ダメなら捨てて書き直す、という感じでやってます。いいのかそんな方法で、と思わないでもないですが、考えれば考えるほど難しくて。


—最後に、〈SFマガジン〉読者にメッセージをお願いします。

 なによりモチベーションになるのは、皆様のご意見やご感想です。Twitterでもブログでも読書メーターでも何でもいいので、ご投稿頂ければ助かります。恥ずかしげもなくばんばんエゴサーチします。というわけで『波の手紙が響くとき』、お手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

—どうもありがとうございました。



『波の手紙が響くとき』オキシタケヒコ、ハヤカワSFシリーズ Jコレクション、本体価格2100円

音声録音だけが手がかりの失踪人探し、深夜に囁かれる幽霊の声の調査……。零細企業の武佐音響研究所には、今日もワケアリの難事件が舞い込む。天使の声帯を持つ所長・佐敷裕一郎、口を開けば罵詈雑言の音響技術者・武藤富士伸、そして2人にこき使われる雑用係・鏑島カリン。彼らの掟破りなサウンド・プロファイリングが、“音”に潜む人々の切ない想いを解き明かす。さらに、彼らと因縁浅からぬトラブルメーカーのミュージシャン・日々木塚響が生み出した不思議な音色の謎は、皆を壮大な生命の秘密へと導いていく──個性的な解析チームが東奔西走するSF音響事件簿! (推薦:飛浩隆)

SFマガジン

この連載について

波の手紙が響くとき』著者インタビュウ

オキシタケヒコ

この5月に《ハヤカワSFシリーズ Jコレクション》より刊行されたSF小説、『波の手紙が響くとき』。その著者であり、2011年よりSF作家としてデビューした新鋭・オキシタケヒコ氏へのインタビュウを掲載します。

関連キーワード

コメント

ninimumdk こちらは、オキシ先生の自作ネットインタビュー(一巻二巻くらいのころ)と、 https://t.co/ElQcrsPvaP https://t.co/gCQtXf57zw こちらオキシ先生の公式サイトの自作についてちょっと話してる箇所 https://t.co/M5kk4yr1Hd 1年以上前 replyretweetfavorite

Hayakawashobo 昨日のインタビューをきっかけにまとめが⇒「野尻抱介の文章のすごさについて」 http://t.co/OJDCaiNYiy ありがとうございます!/ 3年以上前 replyretweetfavorite

korenkan 装丁が有馬さんなのはすぐ分かったが、イラストが平沢さんなのは気づかなかった。 3年以上前 replyretweetfavorite