がんばってもあまり報われない羊社会
僕がたまたま編集したPR誌のなかの写真に写った特別な羊を探す旅の物語、『羊をめぐる冒険』。僕と完璧な耳を持つ彼女は、北海道にあるいるかホテルで羊博士に出会い、写真の羊が写った牧場を教えてもらいます。牧場の管理人に会いに行きしばらく行動をともにしていると、羊に関する僕たちの質問に対して、ぽつぽつと話し始めます。 羊は冬に何をしているのかとか、羊はケンカするのかとか。 そのなかで「羊の種牡はかわいそうだ」という話があります。羊にも群れのなかでしっかりと順位が決められていて、 常に順位争いしながら暮らしています。種牡はそのなかでもナンバー1の羊がなるのですが、ナンバー1は交尾の時期に牝の輪のなかに移されて、終わると元の囲いに戻されちゃうらしいんです。交尾で体重が半分になっているから、ケンカに勝てっこない。なのに総当りで順位争いをさせられて、順位はどんどん降格...。 せっかくナンバーになったのに、なったらなったでその先には絶対的な降格が約束されている、とても報われない生き物なんです。
馬も人間も、 自然のなかの一部なんです
『ねじまき鳥クロニクル』で、妻のクミコはある日、僕が買ってきたトイレットペーパーや、僕が作った牛肉とピーマンの炒め物にいいがかりをつけ、僕にあたります。なんのことかわからない僕は、ふとそのとき、月の満ち欠けとぴったり呼応する妻の生理が近かったんだと思い至ります。 その後クミコは謝りますが、僕は「そういうのに作用されるのは君だけじゃない。馬だって満月のたびにいっぱい死ぬんだ」と言います。馬は月の満ち欠けに非常に左右される動物で、満月が近づくと精神や肉体的なトラブルも増します。満月の夜には病気になる馬や死ぬ馬は増え、日蝕のときは馬たちの置かれた状況はさらに悲劇的なものに。そして皆既日蝕には想像もできない数の馬が死ぬんだそうです。「それに比べたら君が誰かにあたることくらい大したことはないじゃないか」と僕は妻を慰めます。馬も人間も、自然の影響からは逃れられないんですね。
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