chapter5-13 ナンパとは敗者たちがやるもの

ナンパとは、所詮は人生の敗者たちがやる行為だ。しかし、同じ人生の敗者なら、女とセックスできる敗者のほうが、セックスできない敗者よりははるかにいい人生を送れる。僕はセレブリティの仲間入りをしていた。

「ここ、よく来るんですか?」

 チンケなオープナーだ。

「ああ、たまにね」

 ダンスミュージックが鳴り響く店内で、彼女は僕の耳元に顔を近づけてきた。

「私は2回目です」

 ついでに身体も押しつけてきた。

「気安く僕のケツを触らないでくれるかい?」

「ハハハ、すいません」

「悪いけど、僕はもう行かないといけないんだ」

 男女のロールリバーサル、タイムコンストレイントメソッド……、女にモテすぎていて忙しい男の振る舞いを模造するこれらの恋愛工学のテクノロジーは、もはやテクノロジーでも何でもなかった。僕は、本当にその辺の女が下心を持ちながら身体を触ってくることを不愉快に感じていたし、本当にすぐに立ち去りたかったのだ。そして、皮肉なことに、それは完璧な恋愛工学のテクノロジーとして機能するのだった。

 英里香みたいなスーパーSクラスの女を連れてクラブに来ると、他の女はその気になれば入れ食いである。僕を大物プロデューサーかなんかと勘違いする女もいれば、単にいい女を連れているということで本能的に性衝動が湧き上がる女もいた。

 英里香とつきあうようになってから、僕はすっかりセレブの仲間になっていた。

 六本木のクラブは、どぶ板営業みたいに必死になって女たちに声をかけ、媚びへつらい、あわよくばセックスさせてもらう、という場所ではなくなった。

 寄ってくる女たちをあしらわなければいけないのは、僕なのだ。

 ナンパとは、所詮は人生の敗者たちがやる行為だ。同じ人生の敗者なら、女とセックスできる敗者のほうが、セックスできない敗者よりははるかにいい人生を送れるというだけの話だ。

 本当にモテる男は、ナンパなんかしない。

 女が飛びついてくる。


 僕がVIPルームに戻ると、英里香はシャンパンを飲んでひとりで待っていた。

「ねえ、もっと飲もうよ」

 彼女はシャンパンを口に含むと、それを口移しで僕に飲ませてきた。

 僕たちは、そのまま舌をからませあった。

 パンティの中に手を入れると、すでにグショグショに濡れていた。そのまま彼女のパンティーをずりおろし、手で愛撫し続けた。

「あ、あーん」

 僕は彼女をマジックミラーのとなりにあるソファーに押し倒した。ズボンを脱いで、すぐに挿入すると、彼女はその長い脚を僕にからめてきた。

「あん、感じる。なんか、みんなに見られてるみたいで、興奮するね」

 ダンスフロアで踊っている人たちを見下ろしながら、僕はフィニッシュした。

「ねえ、どうして最近、電話くれないの?」

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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