chapter5-8 プロとアマチュア

玲子とは無事にポストSPに移行した。恋愛工学に習熟するプレイヤーは、いくつかの点で、そうでない者たちとは大きく違っていた。

 玲子が、またエレベータホールまで送ってくれた。

「石田さんは、なんであんなに細かく特許を分けてるの?」

「わたなべ君、もう何年、弁理士やってるの? うちの会社では、新しい社長が数値目標を作ったのよ。なんでも、すごい外資系のコンサルティング会社を雇ったら、これからは社員の定量評価が重要だという話になって、エンジニアは1年に特許を5つ以上出願することがノルマになったの」

「ハハハ。なるほど。でも、それはうちみたいな特許事務所にとっては、ありがたい話だね。そのコンサルティング会社と新しい社長には感謝しないと」

「そうよ、感謝しなさいよ。でも、この話には、まだ続きがあるわ。石田さんは、本当はすぐに出願できる別の特許があるんだけど、それは今回は出願しないのよ」

「えっ、どうして?」

「それは、来年にとっておいて、来年のノルマを楽にしようという作戦なの」

「なるほど。さすが玲子の会社は、一流企業だけあってみんな頭がいいね」

「何それ、嫌味?」

「でもさ、そういう会社の利益にならないようなことを防いで、特許戦略を練るのが、玲子の仕事なんじゃないの?」

「会社の利益? そんなものは、誰も考えていないわ。もう、つまらない質問ばっかりしないで!」

 僕が玲子と仲良くなったおかげで、青木国際特許事務所にとって重要な情報が次々と手に入った。青木さんは、僕が週末もクライアントとの関係を深めるために、それこそ身を挺して働いていることに感謝しなければなるまい。特別ボーナスをもらいたいぐらいだ。

「ところで、今週の土曜日は空いてる?」

「そういう質問は好きよ」

 そして、僕は、友美との待ち合わせ場所に向かう。

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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