人生をマネージするために、退任を決めた
—— 新刊『シンプルに考える』、読ませていただきました。とても面白かったのですが、会社を立ち上げて4年目の新人経営者として非常に身につまされるところが多かったです。
森川亮(以下、森川) ははは、ありがとうございます。
—— 今日は、この本に書かれていることをもとに、みなさんが聞きたそうなことと、僕自身が経営者として知りたいことを伺っていきたいと思います。まずは、率直に。LINE事業が絶好調だったのに、会社を辞めることにしたのはなぜでしょうか?
森川 ハンゲームジャパンからNHN JAPAN、LINEと社名こそ変わってきましたが、僕も実質12年、同じ会社にいたことになります。そのうち、社長が8年。そろそろ新しいことを始めるタイミングかな、と素直に思えたんですよね。
—— 今回の決断もそうですが、森川さんは職歴がかなりユニークですよね。33歳のときに日本テレビを辞めてソニーに飛び込み、その3年後にはハンゲームジャパンへ転職されています。転職のたびに収入が半分になったと書かれていましたが。
森川 そうですね。あ、今回は5分の1くらいになりました(笑)。
—— あはは、そうなりますよね。でも、やっぱりみんな疑問だと思うんですよ。日本テレビもソニーも、日本では有数の有名企業です。どうしてこうもキャリアを「捨てる」という選択ができるのでしょうか。
森川 今までの人生を振り返ると、自分が一番つらいときに一番成長しているんですよね。人って、うまくいっているときやちやほやされているときには、まったく育たないものです。いかに自分の人生の「ラク」と「つらい」をマネージするかが重要だと思っていて。だから捨てることに躊躇がないんです。
—— では、今回の起業は、まだまだ成長しようという森川さんの決意表明でもあるんですね。
森川 ええ。人間、成長しないと意味がないですから。
クリエイティブの肝は「野生」
—— 個人的に、僕はこの本に書かれていた「クリエイティブな仕事とオペレーションの仕事を切り分ける」というお話が興味深かったんです。クリエイターは、往々にして自分のつくったプロダクトに情があるじゃないですか。編集者もそうですけど、情があるからこそ最後まで面倒を見たくなる。オペレーションにまで責任を持ちたくなる。
森川 うん、そのとおりです。でも、成功体験や「過去つくったもの」にすがっていては、新しいことに挑戦できません。次の価値を生み出すことに集中してもらうためには、この二つの仕事を分ける必要があったんです。
—— 守りに入らせないために、あえて分離させる。これって口で言うのは簡単ですけど、普通の会社ではなかなかできないことだと思うんです。ちなみに、森川さんはどちらのタイプですか? クリエイティブと、オペレーション。
森川 強いていえばクリエイティブのほうでしょうか。というか、そうでないといけないな、と思っていました。
—— ほう。というと?
森川 日本人は何かを作ると磨き上げるのが好きですよね。でも、「つくる」ことに費やす1時間と「磨く」ことに費やす1時間では、提供できる価値がまったく違います。だから経営者は、どちらもできる必要がある。ぼくは、クリエイティブな人間であろうと意識していますし、そういう組織を育てようと心がけていました。
—— そのクリエイティブな組織の育て方なんですよね、難しいのは。
森川 難しいです。そこで何よりも意識していたのは、「そこが野生であるか」。