円城塔 第三回「文学が人間の姿を描くものなら、ITの最前線にいる人の姿は描かないのか?」

円城塔さんは、実は30代半ばまで物理学の研究者で、その後、作家に転身しました。一般的には縁遠いようにみえる作家と研究者という職業ですが、この二つに共通点があると言います。
『道化師の蝶』で芥川賞、『Self‐Reference ENGINE』でフィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。伊藤計劃さんの遺稿を引き継いで書いた『屍者の帝国』は20万部を突破。類を見ないご活躍の円城さんの独特な考えを伺います。


 叔父は文字だ。文字通り。

(「これはペンです」)

30代の半ばまで、大学に籍を置いて物理学関係の研究員として働いていらして、その後に専業作家へ。よくぞ転身の決心をなさいましたね。

 やっていたのは物理の理論方面だったので、研究費もなかなかつかないし、続けていくこと自体が難しかった。小説の世界のほうに明るい未来を見たということでもなかったです。それに、転身といいますが、研究者と作家はかなり共通点もありますよ。ヘンなこと考えるのが仕事というのは同じですし、突拍子もないこと言っているほうが生き残れるというのも通ずるところがある。研究者はまじめ、というイメージが流通していますが、実態は違いますからね。すでにわかっていることやっていてもだめなので、あっということを常に言っている必要があるんですよ。

 作家にシフトしたら、楽なことは楽でした。作家は嘘をついてもいいですからね。科学のほうは嘘はいけないので。論文に夢落ちなんてあり得ませんし。何をしてもいいというのは気楽です。

何をしてもいい作家の仕事ですが、これだけはしないようにしているといった、独自の戒めはありますか。

 無駄はしないように、と心がけています。無駄に人は殺さないようにする、といったことです。すべてのことに理由づけはあったほうがいい。どの文章にも意味があり、必然性があるというのにはあこがれます。作品をかたちづくるすべてが「何かのため」にあるというほうが、きっといいんですよね。

空から人が降ってきたり(「オブ・ザ・ベースボール」)、「着想」を捕虫網でつかまえたり(「道化師の蝶」)と、どの作品にも豊かなアイデアとイメージがたっぷり詰まっています。それらはいったいどこからくるのでしょう。どんどん湧いてくるものなのですか。

 小さいころから、ヘンなことを言う子どもではありました。アマノジャクというか、ひねくれ者というか。いまはとくにヘンなことを書こうとしている意識はないんですけど、ものの見方の特徴としては、有機物と無機物、それぞれを描写するときのスタンスが変わらない。

それはふだんからそうなんですか? それとも、書くうえでの演出として?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
文学者の肖像

山内宏泰

文学とは、なんなのか。文学者たちは今をどうとらえ、いかに作品に結実しているのか。言葉に向き合う若き作家たちの「顔が見える」インタビューシリーズです。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

bokudentw   https://t.co/Hix5sFms0T  今読んでいる本は「はじめてのFPGA設計」 35歳まで理論物理をやっていて小説家に転身 小説は嘘をついてもいいが物理はダメ 理論物理では食えない 2年以上前 replyretweetfavorite

reading_photo cakes連載「文學者の肖像」、更新しております。 研究者から文学者へ。華麗な転身の顛末とは。 https://t.co/vWx1xc5aZk 2年以上前 replyretweetfavorite

lonelish  毎回おもしろいな~ 2年以上前 replyretweetfavorite

mao_instantlife 小松左京のSF観と似てるな | 2年以上前 replyretweetfavorite