3(悠一)
看板描きのバイトで近くまで行くことになり、この機会に中村先生の店に行こうと思い立った。
中村先生は高校時代の体育教師で、僕は主に保健体育を教わっていた。体育の授業は、隣のクラスの男子との合同。
「……このような時期にちょうど性交をすると、さて、どうなるか?」
という先生の質問に、
「やばいことになります」
男子の一人がそう答えたら、
「ちがいます。おめでたいことになります」
と真顔で訂正したりして、クラスをわかせていた。そのころ先生は結婚を控えていた。からかい半分に婚約者とのセックスの頻度を質問されても、けっして完全無視せず、
「先生は、もう若くないので、時々です」
と照れながら答えていた。当時まだ二十代なかば、今の僕と同い年くらいだったはずだ。
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