フランスでの修行で学んだ料理のポイント
写真:MIchael Booth
ここまで書いたことをふり返るうちに気がついたのだが、この本から僕に関することと僕が考えたことを全部とっ払うと、一種の声明書というか、料理のおきてみたいなものになる。
主なポイントを、ここにまとめておこう(なんでまっ先にここを読まなかったんだろうと後悔することまちがいなしだ)。
*シンプルにこだわらず、複雑なこともときどきは試してみよう。いまはたしかにシンプルな料理がはやりだが、そんなのいつまで続くかわからない。複雑な料理が見直されればいいのにと、僕は思っている。食べものをいい意味でもっといじってほしい。もちろん、網脂やキャベツでくるんだ料理を毎晩つくれだなんて言わないし(一生に1度で十分だ)、自己満足のこだわりでも困るが、たとえばよいフォンでつくったよいソースをかけるだけで、シンプルに軽く料理した良質の肉や魚がレストラン級になるし、きめ細かくなめらかなジャガイモのピュレはいつだって嬉しいものだ。
*はっきり言うが、よい料理はあっという間にはできないし、シンプルにはつくれないことがほとんどだ。10分で食卓に出せるような料理は、おいしくないか、ただのサラダ——しかもあまりよくないサラダ——に決まってる。よい料理をつくるには努力が必要だが、料理に努力の跡が見えてはいけない。シェフは白鳥のように、水面下ではどんなに激しくもがいていても、水面に浮かぶ姿は優雅でなくてはいけない。
*分子ガストロノミーはたしかにすばらしいし、魅力的でおもしろくて気が利いている。だが料理のルールを破るには、まずそのルールをしっかり学ぶ必要がある。そうじゃないとケガをしたり、ブロッコリーのアイスクリームを食べるはめになる。それに学者ぶったことを言うようだが、どんな料理も分子を再構築するからには、「分子」料理と呼べるんじゃないのか?
*鍋にこびりついた茶色いエキスはただのおまけでもないし、洗いものの敵でもない。世界最強のうまみ調味料のひとつだ。うまいソースをつくりたいなら、鍋をこびりつかせることを目標にしよう。
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