育てられた天才たち
モーツァルトが子ども時代に交響曲を作曲できたのは、驚くことではない。幼少時代までに、すでに一般の人が生涯に聴くより多くの音楽を浴びていたのだから。モーツァルトをたぐいまれな天才だと評する人はいる。しかし、彼の音楽の才は、卓越した鍛錬の結果という証拠のほうが、はるかに多い。
「神童」の代表例のように言われるモーツァルトだが、生まれつきの才能が幾分あったにしても、その天才ぶりには、「育ち」が果たした役割が見逃せない。
モーツァルトの父は優秀なヴァイオリン奏者で、幼い息子に朝から晩まで音楽の勉強と練習をさせた。ヴァイオリン、ピアノ、声楽、音楽理論、作曲。モーツァルトは四歳にして、長いピアノ曲を暗譜でミスなく演奏した。初めてピアノ協奏曲を作曲したのは五歳のときだ。五歳上の姉は、「弟は、音楽に没頭しはじめると、およそ他のことに興味がいかなかった」と話している。
モーツァルトは生まれつきの天才ではなく、父レオポルドの音楽教育によって作られた天才なのだ。
天才チェスプレーヤー三姉妹を育てたラズロー・ポルガーは、著書「天才を育てなさい!」(Bring up Genius!)で、どんな子どもでも正しい環境さえ与えてやれば、いかなる分野でも卓越した結果を出すことができる、と述べている。先天的な能力の不足は、努力で補えるのだ。
この説には懐疑的な意見もあったため、ラズローは学校教師のクララとの間にスーザン、ソフィア、ユディットの三姉妹をもうけ、実践で証明してみせた。
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