『ホーンズ 容疑者と告白の角』は、ジャンル分けがむずかしい作品である。監督はホラーを得意とするフランス人、アレクサンドル・アジャだが、本作にはさまざまな要素が混在していて、ホラー映画とは呼びにくい。物語は、主人公の青年イグの恋人が、何者かによって殺されてしまう場面から始まる。彼女の死を悼む間もなく、身に覚えのない恋人殺しの疑惑をかけられ、窮地に陥るイグ。彼は友人の弁護士と協力しながら、殺人の嫌疑を払拭しようとしていたが、ある日突然、ひたいから2本の硬い角が生えてきてしまう。しだいに大きくなる角にはふしぎな力があった。彼の角を見た者は、心のなかの秘密を隠しておくことができず、通常であれば絶対に口にしない重大な事実を、堰を切ったように話しだすのだ。角の力は人びとに告白をさせるばかりか、欲望に火をつけさえする。こうして作品は、サスペンスとファンタジー、ホラーとコメディが渾然一体となりつつ、犯人探しのミステリが展開されるという、非常にめずらしいタイプの映画に仕上がっている。主演は『ハリー・ポッター』シリーズ(’01 – ’11)で知られるダニエル・ラドクリフ。
80年代に人気の高かった映画を挙げていくと、ひとつの小さな町の周辺ですべての物語が完結するタイプの作品が意外と多いことに気がつく。『E.T.』(’82)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(’85)、『グーニーズ』(’85)、『スタンド・バイ・ミー』(’86)、そして数多くのホラー映画。あらゆる冒険がごくありふれた田舎町や郊外で繰りひろげられ、別の町や都市といった外部はいっさい描写されることなく終わる、いわば「スモールタウンもの」とでも呼ぶべき系譜である。小さな町に住む少年少女。彼らはこの町を出ていくかもしれないし、住み続けるかもしれない。ノスタルジーを強調した80年代のスモールタウンものには、よく知った土地ならでは居心地のよさと同時に、早くそこを出ていきたいという閉塞感があった。地方出身者ほど、こうしたモチーフへの共感は強いだろう。
『ホーンズ 容疑者と告白の角』は、かなり突飛なアイデアで構成されているにもかかわらず、青春のきらめきや懐かしさを感じさせる作品である。小さな田舎町の内部で起こった騒動を描いていることがその理由のひとつではないか。登場する土地が限定されることや、子ども時代が追想される場面の効果などもあいまって、80年代のスモールタウンものをノスタルジックに連想させる。
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