第4回 ちょっとだけ「反原発」の理由

明石家さんまさんの名ゼリフ「男は都合のええ女が好きなんや」ってご存知ですか? 動物もウィルスも人も都合のいい環境、「自分が生きやすい状況にしてくれる人」が好きなんだそうです。糸井重里さんと開沼博さんの対談、第4回では「疑いのまなざし」をやめない人々の気持ちについてお二人が語りました。お二人はこれからの原発、そして福島との関わり方をどう考えているのでしょうか?

明石家さんまさんの名ゼリフ

開沼博(以下、開沼) わたしは福島の問題について、2014年はひとつの転換点だったと思っています。

糸井重里(以下、糸井) ああ、そうだと思います。

開沼 わかりやすい説明を与えるならば、いくつか大きなイベントがあった。ひとつは2014年頭の都知事選の政治イベントが終わった結果、原発問題を掲げた選挙戦がなかなか成立しづらくなった。そこまでは2012年冬の衆院選、2013年夏の参院選と「原発問題掲げれば弱小政治家もポピュリズムで当選できるかも」的な幻想があった。でも、都知事選で小泉純一郎出てきたところであの結果が出て夢から覚めた。政治的な転換点がそこにはあった。それから『美味しんぼ』の話も「あれれ、この話で『言論の自由がー』とかなるのはどうなんだ」という普通の人の感覚があり、さらに、吉田調書の話があり、大メディアの社長の首が飛ぶ中でメディアのなかにも普通の人の中にも「ちょっと煽りすぎるのはどうなんだ?」という空気が出てきた。これは日本全体の漠然とした空気の話ですよね。
 一方、福島の中ではどうか。『はじめての福島学』にも書きましたけど、いろんなところでそろそろ落ち着いてきたという数字がグラフとして明確に出てきた。たとえば合計特殊出生率。福島県の合計特殊出生率は2011年、12年と、たしかに下がってるんだけど、13年からV字回復している。むしろ震災前よりも多くなっていて、福島での里帰り出産も震災前水準に増えてきている。
※合計特殊出生率:人口統計上の指標で、一人の女性が一生に産む子供の平均数

糸井 そうですね。

開沼 つまり、現実的には幻想を見たり、なんでも過剰に猜疑心を持ち続ける状況はなくなってきている。ただ、明確にそういう転換点がある中で、それでも事実を認めず、「疑いのまなざし」をやめない方がいらっしゃる。彼らのモチベーションは不安なのかもしれないし、怒りなのかもしれないし、誰かとつながっていたいという感情かもしれない。その点、ぜひ糸井さんに伺いたいんですが、そこの「疑いのまなざし」をやめられない方が持っている感情って、なんだと思いますか?

糸井 そこはねえ、想像する回数は多いんですけど、想像することじゃないのかもしれないって思うんです。つまり、そこのところに目をやって、たとえ「わかった」としても、あんまり意味がない気がする。もっと広いところで法則化してみたい、という気持ちはあるんです。
 たとえばぼくは、「人はなにを中心にして生きているか」みたいなことは、考えるんですよ。それは「自分のこと」として、考えられるからです。でも、「他人のこと」を考えるときって、ぼくはヒントにしか使わないんです。ほんとうのところはわからないから。その「自分のこと」として考えたことで言うと、人って「自分が生きやすい状況にしてくれる人」が好きですよ。

開沼 生きやすい状況にしてくれる人。

糸井 明石家さんまさんの名ゼリフに、「男は都合のええ女が好きなんや」ということばがあるんです。これは男だけじゃなくって、たぶん女も「都合のいい男」が好きですよ。「都合のいい」という言い方はすごく失礼に聞こえるんですけど、動物であれ、ウィルスであれ、自分にとって「都合のいい」状況になるために、環境に対して働きかけているわけですよね。

開沼 そうですね。

糸井 そうすると、もし開沼さんのお仕事が高く評価されたときに、ある人が「このままじゃ自分にとって都合の悪い社会に傾いていくぞ」と感じたら、なんであれ「開沼はけしからん」ってなりますよ。そういうことなんだと思うんです。
 たとえば、議論がAとBで対立しているときに、もう30年も40年も「ぜったいにBだ」という生き方をしてきた人がいる。ところが開沼さんのお仕事によって、Aの支持がどんどん拡大していく。そうなったら、事実がどうあれ自分の「都合が悪くなる」を防がなきゃいけないから、なんらかの嫌がらせをしてきますよ。そこはもう触ってもしょうがないし、見つめてもしょうがないと思っています。

もしも自分が少数派になったら

開沼 よくわかりますね。では、もしも糸井さん自身が少数派になって、社会が糸井さんにとって都合の悪い場所になったときにはどうされますか?

糸井 思考実験としては、よく考えます。ぼくが少数派になったときの覚悟は、「隣の人がわかってくれないようなことはダメだ」なんです。だから、まずは隣の人に向けて、ほんとうにコツコツと説明していくしかない。

開沼 ほう。

糸井 ……このへんはねえ、発言がむずかしいところなんですけど、正直に言ってしまうと、ぼくはちょっとだけ「反原発」なんですよ。ちょっとだけ、というのもおかしいんだけど。なぜなら、

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福島を知ろうとすること。

糸井重里 /開沼博

東日本大震災から4年が経ち、世間の福島への関心が薄くなりつつある中、『知ろうとすること。』を出版された糸井重里さんと、cakesの連載をまとめた書籍『はじめての福島学』を出版された開沼博さんの対談が実現しました。 「福島の問題を本と...もっと読む

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コメント

mitsuwane8 長いものに巻かれることを良しとしない生き方があってもいいと思うので、僕は違うね。 8ヶ月前 replyretweetfavorite

jackiemopsy 糸井重里:「ぼくちゃん, *ちょっとだけ* '反原発'なんでちゅ..。」 http://t.co/hJn9mA5Mbp  http://t.co/2P0cAujmSf  かわいこぶるのも、いい加減にして欲しい。  #ShigesatoItoi #Dentsu#hypocrite 2年弱前 replyretweetfavorite

munaken 「ぼくが少数派になったときの覚悟は、「隣の人がわかってくれないようなことはダメだ」なんです。だから、まずは隣の人に向けて、ほんとうにコツコツと説明していくしかない」(糸井重里) http://t.co/bti5HGMvtI 2年弱前 replyretweetfavorite

imaitko 「たとえば、議論がAとBで対立しているときに、もう30年も40年も「ぜったいにBだ」という生き方をしてきた人がいる。ところが開沼さんのお仕事によって、Aの支持が…」このロジックで言うと、どう考えても原子力ムラが当てはまるだろう https://t.co/BpWBVqlSQS 2年弱前 replyretweetfavorite