商品開発には大きく二つのやり方があります。
ひとつは、技術的アプローチ。その代表格がgoogleです。人々が欲しがるかどうかはわからないけれど、エンジニアが「面白い!」と思うものをとにかく世に出して、その中で当たったものをビジネス化していく。優秀なエンジニア集団であり、かつ巨額の開発費をもつgoogleならではの手法です。
もうひとつが、デザイナーが主導するアプローチ。スティーブ・ジョブズが典型ですが、人々が求めている「価値」を突き詰めて、それをデザイナーが主導して具現化する手法です。ユーザーが操作するときに心地よさを感じてもらう。その「感性」にフォーカスする手法、と言ってもいいでしょう。
LINE株式会社のアプローチは後者です。
なぜか? インターネット市場が成熟したからです。市場が成熟化するとは、すなわちユーザーが限りなく広がったということ。「ギーク」と呼ばれるITに詳しい一部の人々ではなく、ITにそれほど詳しくない「普通の人々」がユーザーになった。
それを加速させたのがスマートフォンの普及です。ノートパソコンが普及し始めた当時、多くの経済学者はパソコンを一人一台持つ時代が来るだろうと予測しました。しかし、そのような時代は来ませんでした。
ところが、スマートフォンがそれを現実のものにしました。スマートフォンは、24時間、いつでもインターネットにアクセスでき、どこにでも持ち歩くことができる、いわば小型のパソコン。その手軽さから、あまりパソコンを使わなかった女子高生、主婦、高齢者まで、一人一台スマートフォンを持つ時代になったのです。だから、デザイナーが商品開発を主導することによって、「普通の人々」でも簡単に心地よく使えるものをつくり上げなければ、受け入れてもらえなくなったのです。
実際、googleのサービスは、まずギークの間で流行った後に、一般に広がるケースが多いですが、LINEはリリースと同時に若い女性を中心に一気に広がっていきました。こうした現象は、これからますます増えていくと確信しています。
だから、LINE株式会社ではデザイナーがサービス開発を主導するケースが多い。
もちろん、優秀なエンジニアの存在はきわめて重要です。しかし、エンジニアがリーダーシップをとると、どうしても機能過多になりがち。最新の技術や自分が得意な技術を盛り込もうとしてしまう。そもそもエンジニアはリテラシーが高いですから、彼らにとって当たり前のことでも、「普通の人々」からすると難解になってしまう。つまり、ユーザーのニーズから離れてしまうことがあるのです。