どうして予防医学研究者の私がダイエット本を書いたのか?
最初にもすこし書きましたが、私は予防医学の研究者です。東京大学医学部を卒業後、ハーバード大学で「公衆衛生」を専攻しました。現在は、厚生労働省などから依頼を受けて、医師や保健師、栄養士に、ダイエットをはじめとする健康づくりについて、指導を行っています。
私の父親は医者です。ですから、父の背中を見るうちに、医者になることも考えました。
しかし、「いかに多くの人を救うことができるか」を考えた結果、行き着いたのが「公衆衛生」という一見地味なテーマでした。この学問が目指すことをひと言で言えば、目の前の患者さんだけでなく、もっと広い、「みんなの健康づくり」です。
たとえば、発展途上国では、今も栄養不足と感染症に苦しむ人が多くいます。そうした地域では、一人ひとりの病気を治療するのも大切ですが、浄水場をつくり、上下水道を整備するだけで、一度に何十万人もの人々の健康状態が改善します。
日本のような先進諸国だと、死亡の原因につながるような問題は、また違います。お酒やタバコなどの問題もありますが、やはり「肥満」が大きな問題です。肥満は、糖尿病、脳卒中、心臓病、脂質異常症、高血圧など、あらゆる生活習慣病とつながる大きな要因でありながら、世界的に改善が進んでいない分野だったからです。どこの先進国でもメタボリック症候群と呼ばれる肥満に苦しんでいます。
じつはあまり知られていないのですが、ダイエットについての本格的な研究は、今までほとんどなかったのです。なぜなら、ダイエットを突き詰めると、身体のメカニズムでは医学・生理学、甘いものがもたらす中毒性は脳科学、節制を上手に続けるには心理学、他にも行動科学や社会学など、かなり幅広い分野の学問が必要になるためです。