日本人にはダシがあるほうがおいしい
水野仁輔(以下、水野) 前回は、たまねぎを飴色に炒めて、にんにくとしょうがとりんご、を入れたところで、水分を飛ばしました。これもインドカレーの仕込みのときに話した塩の話と一緒です。食材のうまみが引き締まって外にでるので、煮込むごとにおいしくなるという。
—— はい。家庭でも意識すればしっかり出来そうなポイントでした。
水野 水分が飛んだら、このあとトマトピューレを入れてねっとりした状態をつくってから、小麦粉を入れて混ぜます。最後にカレー粉を入れていためます。
ところで、トマト缶って、ホールトマトとカットトマトって味が違うって知ってました?
—— え、そうなんですか? 知りません。
水野 僕も数年前まで知らなかったんですけど、トマトの品種が違うんですよ。ホールトマトのほうが甘みとうまみが強いんです。カットトマトはさっぱりしていて、味はそれほど濃くない。
—— 初めて知りました。どちらが良いんですか?
水野 カレーみたいな濃い味の料理には、ホールトマトのほうがおいしいと思います。イタリア人シェフは料理によって、使い分けているそうです。
—— 今まで単に便利だと思って、カットトマトを使ったりしてました……。ちなみにトマトピューレと缶詰の違いはあるんですか?
水野 大きな違いはないんですけど、形状が違うので、味の濃さなどに微妙な違いがあるんですよね。これは欧風カレーなのでコクを意識してトマトピューレです。
—— おお、なるほど。
水野 でもね、本当に一番美味しいのは、生のトマトなんですよ。
—— そうなんですか。
水野 ただね。生のトマト、とレシピで書いてもトマトって季節や状態によってぜんぜん味が違うでしょう? 季節外れの味の薄いトマトを使うんだったら、缶詰のほうがいいんですよね。
—— なるほどなあ。じゃあ、おいしいトマトがあれば生のほうがいいと。
水野 そうです。生のトマトを使う場合は、5,6分多く火を入れてください。そう考えると、やっぱり缶詰は楽なんですよね。
—— はい。
水野 水気がある程度飛んだら、小麦粉を入れていきます。
—— 小麦粉ってどうして必要なんですか?
水野 とろみをつけるためですね。ちなみに、小麦粉をはじめにいれたのはイギリス人なんですよね。インド人は絶対いれないです。
—— なるほど、だから「欧風」カレーなんですね。
水野 そうなんです。イギリス人がシチューをアレンジして、小麦粉やバターを入れはじめたんですよね。
—— 量はどの程度いれるんですか?
水野 これも加減が難しいんですよね。結局、いれたらいれただけとろみがつくんですけど、やりすぎてもいけない。普通に4人前で大さじ3ぐらいが標準ですかね。
—— S&Bの赤缶の裏にも、5皿分で、大さじ4と書いてありますね。つまり一人前、大さじ1弱ぐらいということですかね。
水野 まあ、そんなもんでしょうね。さて、さっきまでは、火にかけながら仕込みをしたりして放置していましたけど、小麦粉を入れたら、かかりっきりになってほしいです。だまや焦げを防ぐために、手を休めずよくかき混ぜてください。
—— はい。
水野 では、カレー粉をいれていきます。今日は、おなじみのS&Bの赤缶を使います。赤缶は意外と辛いんですよね。お子さんは食べられない子も多いくらいです。で、これは30数種類ものスパイスを使用しているんです。足し算の思想の最たるものですね。種類が多ければおいしいのか、と言われれば、それはまた別の問題です。インド人の使っているカレーのスパイスには、多くて7〜8種類しか入ってません。
—— 赤缶がやっぱりいいんですか?
水野 僕としては黄色い缶のインディラカレーのほうが好みなんですけど、今回はみなさんになじみのあるカレーの延長線上の欧風カレー、ということで赤缶にしました。
焼き目でうまみを閉じ込めるというのは間違い
水野 カレー粉をいれてまた少し炒めて、粉っぽさがとんだところでチキンブイヨンをいれます。
—— おお、さっきからキッチンの隅にあって気になっていたこれですか。
水野 そうです。昨晩から仕込みをしていたチキンブイヨンスープです。