タマネギはみじん切りとスライスで味が違う!
水野仁輔(以下、水野) じゃあ、インドカレーからいきましょう。
—— はい。よろしくお願いします。あの、いきなりですが、木べらの量がすごいですよね。
水野 あ、これはですね、海外に行った時とか、いろんなところで新しい木べらを見つけると、ついつい買ってしまうんですよ。というのは、鍋によって使いやすい木べらが違うんです。最初に、つくるカレーが決まって、そのカレーに適している鍋が決まって、その鍋に適している木べら(先端が丸いものや一直線なもの)が決まって……。だから、どんどん増えていくんです。
—— すごいこだわりです。
水野 じゃあ、タマネギから切っていきましょうか。今回はピースオブケイクのみなさん20人前、2種類のカレーなので、それぞれ多めの10人前ほどつくります。つくる量が多いので4つ使います。まずは皮をむきます。むいたら、切っていくわけですが、みじん切りにするか、スライスで切るかで、味が変わるという説があるんです。
—— え、そうなんですか。
水野 インド料理のシェフたちと話していると、結構その説を信じている人もたくさんいて、僕もそのイメージは持っていて、楽だからスライスでやっちゃうんだけど、みじん切りのほうが濃い味になり、スライスのほうがさっぱりした味になる、というのが僕やインド料理のシェフたちの議論の結果です。
—— なるほど。はじめて聞きました。
水野 僕は、じっくりつくるときはみじん切りでいきます。今回はスライスでいきましょう。真ん中に縦に切れ目を入れてからスライスするのは南インドのやり方です。
—— 今回はあっさり仕様と。それにしても、切るのがむちゃくちゃ速い!
水野 ずっとやってますから(笑)。
はい。切り終わったので、次は炒める準備をしましょう。油は多めにいれます。通常の3倍くらいかな。僕はベニバナ油を使います。
—— 水野さん、何を探してらっしゃるんですか?
水野 シナモンスティックがあれば使いたいなと思ったんですが、ないのであきらめます。かわりにこれ、ベイリーフを使います。
—— それはローリエじゃないんですか?
水野 それが違うんです。僕も昔は勘違いをしていました(笑)。見た目はローリエ(月桂樹)と似てるんですが、ベイリーフはもっと大きいんですよね。匂いをかぐとわかりますが、ベイリーフというのはシナモンの葉なんです。ベイリーフとローリエというのは全然違うんです。これを入れると肉の臭みを消してシナモンの香りがつきます。
ローリエよりも二回りほど大きな葉っぱベイリーフ
—— 確かに大きさも香りも全然違います。
水野 ベニバナ油は発煙点(油から煙が出る温度)が一番高いんです。だから高温で長時間炒めるのに適しています。そこに入れるものは、シナモン、クローブ、カルダモン。肉料理に相性のいい3つなのでよく使うんです。
今日はシナモンのかわりに、さきほどのベイリーフを使います。シャンツァイの茎や青とうがらしもあったらいれます。
—— 全部市販で買えるものですね。
水野 はい、スーパーで買えるものです。じゃあ実際に炒めていきます。とにかくインドカレーというのは、前半戦は、油に香りを移す作業なんです。
—— 油に香りを。なるほど。パチパチといい音がしますねえ。
塩は具材を投入するたびに入れるのが水野流!
水野 ここにタマネギを投入して炒めていきます。そこに塩なんですが、これも入れ方があるんですね。僕は、鍋に新しい材料をいれるたびに塩を入れていくという考えです。
このカレーに必要な塩分が100%とすると、材料が10個あれば、材料をひとつ入れるたびに、10%の塩をいれていくというのが理想のカレーの味付けのやりかたです。
—— 塩は分けて入れると。なぜですか?
水野 塩の効果というのは味を引き出す、食材のなかの水分を外にだす、ということです。食材が引き締まってうまみが外にでるんですね。だから、食材を入れたその都度いれたほうがおいしくなります。
—— なるほど。でも分割して入れていくのって難しそうです。
水野 そうですね。さっきは10%と言いましたが、実際はすこし少なめに入れていって、材料をすべて入れた段階で80%くらいの塩分量になって、最後に微調整をするのが現実的な方法だと思います。塩分は、足りなかったら足せばいいけど、引くことは絶対にできないので。
—— なるほど。火加減は、ずっと中火から強火ぐらいですね。そろそろタマネギ焦げませんか?
水野 ちょっと前にタマネギを入れましたけど、僕はまだ、あえてまったくかき混ぜず触っていません。5分くらいさわらなくても、全然大丈夫なんですよ。
—— そうなんですか! ふつう焦げたらイヤだからかき混ぜますよね。
水野 混ぜるとなかなか火が通らないんです。
たとえば、夏の海で砂浜を走っているとそんなに足の裏は暑くならないけど、じっと立っていると熱くなります。それと同じです。ある程度放置したほうがすぐ火が通るわけです。
—— なるほど。これは目からうろこですね。いままでずっとかき混ぜてました。だから色がつくまで時間がかかったのか。
水野 そう。かき混ぜると、飴色になるまで何時間もかかったりします。僕のやり方だと15分くらいでいけます。
—— それは速い!
水野 で、いま、結構放置して、ちょっと混ぜて、を繰り返してますよね。そろそろ焦げ臭い匂いがしてきました。
水野 ほとんどの人はこれを見ちゃうと、ああ、黒く焦げてもうダメだって失敗しちゃったとなっちゃうんですけど、ここでびびっちゃいけないんです。一部だけみると焦げているようにみえるじゃないですか。でもこれは焦げていないんです。
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