上野千鶴子(以下、上野) 『はじめての福島学』によると人口が増えている町があるそうですね。
開沼博(以下、開沼) そうです。細かいところまでお読み頂きありがとうございます。
上野 そりゃ、読みましたからね(笑)。えっと、「ひろのちょう」ですよね?
開沼 あ、それ、「ひろのまち」って読むんですよ。
上野 あら、そうなの?
開沼 ええ、福島県は「ちょう」ではなく「まち」って言うんです。
上野 それは知りませんでした。
開沼 よくいるんですよ。「福島がんばって取材してきました」って言う人で「どこに行きましたか?」って聞くと、ずっと「ひろのちょう、ふたばちょう……」って誰よりも知ってますみたいな顔で答える人。まあいいんですけどね。
上野 本当に行ったのかしら?(笑)
開沼 わかりません(笑)。
人口が増えている福島県広野町(ひろのまち)
上野 前回、日本の地方全般が抱える普遍的な問題として、地域の衰退、特に人口減少が福島でも起こっているという話がありましたが、被災地に隣接して復興の基地になっている
※広野町:福島県浜通り南部、30キロ圏内。2013年末に警戒区域が解除され、今も一部区域が帰還困難区域となっている。
開沼 はい、まず広野町の3・11前の人口は約5500人です。福島第一原発から20kmのラインに外から接するところにある町です。この20kmラインのところまでを「警戒区域」といって、3・11後に閣僚が来て「死の街」発言をしていきました。それで、いまも人口が全然戻っていない、という俗説もあるわけですね。
でも実際行ってみると、人がいっぱいることに気づく。たとえば昼ごはんを食べに行くと、町の中の食堂は満杯で、待たされます。広野町は3・11前、住民票ベースで人口5500人の町だけど、現在の水道の使用量をみると3・11前と同じかそれ以上に人口がいるらしいということがわかっているんです。
それで、この内実が興味深いんですね。住民票がある人口のうち戻ってきているのは約2000人。四割弱は戻ってきています。じゃあ、残りの3000-4000人はなんなんだということです。
これは、基本的には復興関係の仕事で来ている人です。3000人以上の原発や除染及びそれに関わる雇用で人が集まってきている。その方々は、新しくできたアパートとか、仮設の宿舎とか、現在避難中の方の家をシェアハウス的に借り上げて住んでいる場所もあるんです。
上野 そうなの。
開沼 はい。そういった形で、いびつではあるんだけど震災前よりも人口が増えている状況がある。一方で、多くの人のイメージ上の「原発近くの町」は、家には人がいなくて、中も放置されているというような「死の街」に固定化されていたりする。イメージと現実の間にだいぶギャップがあるんです。
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