上野千鶴子(以下、上野) 前回、開沼さんがネットで「福島 農家」と検索した時にセットで出てくるのが、「テロ」、「死ね」とかいう言葉だっていう話で思い出したんですけど、私、ネットで「フェミ」って検索したことがあるんですよ。
開沼博(以下、開沼) なんて出ましたか?
上野 「フェミ」って打って、スペース入力した瞬間に「キモ」、「うざい」、「ババア」って出てきてね(笑)。
開沼 それもすさまじいですね(笑)。
上野 しかも「フェミナチ」って言葉まであるから、それで検索したら、画面下の「フェミナチに関連する検索キーワード」のところに「上野千鶴子」って表示されました。
開沼 それはそれは(苦笑)。
上野 でも、じゃあそういうことを言っているネットオーディエンスを全部相手にすべきかといえばそういう話ではないんだけどね。
開沼 それはそうですね。
「福島へのありがた迷惑十二箇条」を読んだ人たち
上野 開沼さんとしては、誰を読者ターゲットにしてこの本を書いたんですか?
開沼 ひとつは俗流フクシマ論を口にして扇動する、デマゴーグたちですね。ただ、その中でも極端なとこにイッちゃっている人はお客様じゃありません。特にネット上の議論を想定すれば、何言ってもすべて陰謀論と誹謗中傷で返してくるのでそれこそ相手にするだけ時間の無駄です。なので論理的に判断したい人と、新聞などのマスメディアや研究者をメインターゲットにしています。
この本を出版するにあたって、あとがきを一部切り出して「福島へのありがた迷惑12箇条」として、cakesに載せました。ほかの記事はツイッターなどのメディアでだいたい100件から200件の反応があったんですが、この記事はFacebookで8000以上、ツイッターでも3000件近くの反応があったんです。
上野 すごい反響があったのね。
開沼 「漠然と思っていたことを言葉にしてくれた」「今までになかった議論を出してくれたなあ」「こういう議論を待っていた」というリアクションがあったんですね。いい意味での炎上をしたんです。
上野 それは、ネットにアクセスする人たちだけからの反応ですよね。被災者は高齢化しているということですが、その人たちはきっとcakesを見てませんよね?
開沼 そうかもしれませんね。ネットではなく共同通信配信の記事や雑誌などで同じ内容を出したことがありますが、その時にも同様のリアクションをもらっています。
上野 なるほど。私は、こういった本を書くにあたっては被災の当事者が読んだ際に「私の言いたいことを代弁してくれた」っていう納得が絶対に必要だと思います。
開沼 ええ。僕は代弁するつもりは一切なく、ただ事実を記述しただけです。しかし、先ほどの番外編にツイッターやFacebookなどで反応してくれた方々のプロフィールを見ると大きな割合が福島県内の被災者の方々で、まさに「代弁してくれた」というリアクションも多い。あと、直接「これまで、県外の知人の的はずれな言動に言い返せずにいて嫌な思いをしてきたけど、こうやってデータを元に話せばいいんだとわかった。ありがとう」とか「孤独感に苛まれていた自分の大変さを誰も理解してくれていないと思ったけど、こうやって言葉にして多くの人に知らせてくれて嬉しい」といった感想を伝えてきてくれた方もいます。
上野 そうなんですか。この「福島へのありがた迷惑12箇条」を読むと、これには「勝手に『福島は危険だ』ということにする」、「勝手に『福島の人は怯え苦しんでいる』ことにする」をはじめとして「勝手に―」っていうのが12個書いてありますね。
開沼 はい。
上野 それを、Facebookで「いいね!」したり、Twitterでツイートした人たちは、自分はこの「勝手に―」に当てはまらない、とドヤ顔で思い込んでいる人なんじゃないかしら?
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