人生の原動力は「さみしさ」から生まれる

坂本龍馬、ディズニー、ジョブズ、山口百恵、酒井法子など猛烈なさみしさの持ち主だったという彼らの人生、そして自身の体験を描いた中森明夫さんの新刊『寂しさの力』。作家、アイドル評論家として活躍してきた中森さんは、この本にどのような思いを込めたのでしょうか。後編では、中森さんが「さみしさの力」に気付くきっかけとなった母の話、人生の原動力について。
三省堂有楽町店で行われた中森明夫さんのトークイベントから、その内容をお伝えします。

母に捧げる本を書きたかった

『寂しさの力』を書くにあたって、まず誰に読んでもらう本なのかを考えました。いつものアイドルやサブカルチャーについて書いた本と毛並みが違うので、確実に読者層は違うだろうと。そうやってあれこれ考えてたら、ふと母の顔が浮かんできました。

寂しさの力 (新潮新書)
寂しさの力 (新潮新書)

 僕の母は、尋常小学校*1出で、学もないし、本を読むようなタイプではないんですけど、僕が書いた本や雑誌、新聞とかを読んでいると言っていました。アイドルとかサブカルチャーとかについて書いたばかりなので、母にとっては意味不明なものだったと思いますが。
*1 明治維新から第二次世界大戦前までの時代に設置された初等教育機関。

 それでも一生懸命読もうとしてる母のことを考えた時に、今まで親孝行してこなかったので、一度くらいは母に捧げる本を書いてもいいんじゃないかと思ったんです。それで、この本は母に捧げる本だ、という思いで書き始めました。

 それから一年がたちました。やっとこの本の1章を書き終え、2章の途中の頃に、姉から電話がかかってきて、母が体調を崩して寝込んでいると伝えられました。でも、母はすごい元気な人で、病気とか全然しない人だったから大丈夫だろう、くらいに考えていました。

 そうしたら、また数日後に電話がかかってきて、今度は入院したと。肺炎で非常に弱ってて、手術もできないくらいになってると言われました。そして母は、うわ言のように僕の名前を呼んでるっていうんです。そこまで悪いとは思わなかったので、翌日慌てて帰って、今書いてる本のことを伝えようと書きかけの原稿を持って病院に行きました。

 病室に行くと、鼻に酸素吸入の管を通して、腕には点滴の針をさした母がいました。そんな衰弱した母の手を握って、原稿を母に見せながら「これは僕が母ちゃんのために書いてるんだから、書き終わるまで死んじゃダメだよ」というようなことを伝えました。

 母は、原稿を読んでいる時も「さみしいさみしい」と言うんですけど、僕は「さみしいからいいんだ。さみしいから会いに来ようって思えるから、また会いに来るから」と言って東京に戻ったんです。

 そして、その翌々日に母は亡くなりました。

「悲しさ」が「さみしさ」に変わった瞬間

 この本を捧げる相手を途中で失い、書くモチベーションが無くなって原稿は全く進みませんでした。

 新潮社の石井さんは、お母さんの供養のためにも書かなきゃって言ってくれて、僕もそう思ってがんばったんですけど、やっぱり書けなかった。そんな状態がしばらく続いて、結局立て直すまでにものすごい時間がかかりました。

 立て直したきっかけは、2013年に放送していたNHKの連続テレビ小説『あまちゃん』でした。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
成功を生む「さみしさ」の哲学サミシズム—中森明夫『寂しさの力』執筆秘話

中森明夫

「人間のもっとも強い力は『さみしさ』だ」。坂本龍馬、ディズニー、ジョブズなどの偉人や山口百恵、酒井法子など芸能界のスターなど、猛烈なさみしさの持ち主だった彼らの人生を紐解き、「人間の最も強い力」を描き出した中森明夫さんの新刊『寂しさの...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

chiyio1011 読んでてさみしくなった…(´・_・`) QT 5年弱前 replyretweetfavorite