第63回】松浦弥太郎クックパッド移籍に見る「ていねいな暮らし」の限界

正真正銘の「上質な暮らし」を追求し、編集長として『暮しの手帖』を引っ張ってきた松浦弥太郎さん。そんな松浦さんですが、なんと今年4月からクックパッドに移籍し、多くの人を驚かせました。一流、本物を追求し、「ていねいな暮らし」を貫いてきた松浦さんは何故移籍を選んだのでしょうか? その背景を勝手に解き明かします!

4月第5週の主なできごと
・フィッチ、日本国債を1段階格下げ(4月27日)
・JASRAC 最高裁で「新規参入妨害」確定(4月28日)
・『ドラゴンボール』18年ぶりTV新シリーズ(4月28日)
・すしざんまい社長が涙 豊洲観光施設の整備辞退(4月29日)
・ソニー、3年ぶり黒字転換へ(4月30日)

正真正銘の「上質な暮らし」を追求した先にあるものは?

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 前回は急きょ反省会をしましたので、今回は前々回の終わりで予告したネタを取り上げましょう。松浦弥太郎氏が『暮しの手帖』編集長を辞任して、4月1日付けで「クックパッド」に入社しました。

速水健朗(以下、速水) 詳しくない人向けに例えるなら、セカオワのFUKASEが湘南乃風にメンバー入りしたくらいの意外さ、という説明でどうだろう。

おぐら それは衝撃的ですが、どうでしょう……。ものすごく見てみたいという期待感を煽る意味では、共通しているような気もします。

速水 まず『暮しの手帖』だけど、花森安治氏が戦後すぐに創刊した雑誌で、今で言うライフスタイルマガジンのはしりみたいな感じなんだけど、松浦氏が編集長になる以前は、お年寄りしか手に取らないような雑誌だったんだよね。

おぐら そこで2006年に松浦氏が編集長に抜擢され、若返りをはかる路線変更をした結果、見事成功しました。その時期って、2003年に「ストーリーのあるモノと暮らし」を掲げた『クウネル』が創刊、2005年にはそれまで別冊だった『天然生活』が独立創刊したりと、いわゆるライフスタイル誌がブームになっている頃で、うまく時代の要求とも合致しました。

速水 松浦氏は元々、個性的な中目黒の書店の「COW BOOKS」を立ち上げたりして注目されていた人だけど、それ以後はすっかり「ライフスタイル系」の人だね。弥太郎流に言うと「ていねいな暮らし」。

おぐら そして一流を愛する本物志向の人で、『BRUTUS』2014年9/1号では一冊丸ごと「松浦弥太郎の男の一流品カタログ」という特集を組まれるほどでした。その中にあるエッセイで、小学生にして当時4万8千円のプロ野球選手が使うグローブをお母さんに買ってもらったというエピソードと共に「手に入れるなら本物しか欲しくはなかった」と書いていて、筋金入りだなと。

速水 身につけるものから生活用品、食べるものまで一流にこだわり、正真正銘の「上質な暮らし」を追求してきた人だよね。

おぐら ちなみに僕が10代の頃は、道で売ってたブートレッグ(海賊版)のバンドTシャツを着て宅配ピザとかのジャンクフードを食べながらB級映画を見るような生活でした。

速水 一流と本物がどこにもない(笑)。まぁでもサブカルとしては正しい生活だと思うよ。

おぐら そう信じてやってきましたけど、ここ何年かはもうそれだけじゃだめだなと思うようになって。ジャンクやB級のサブカルが好きなのはいいけど、30代後半にもなったら、本物や一流のものにも興味を持った方がいいと、わりといろんな人に言われます。

速水 いいものに触れないと人間は成長しないってことを松浦氏もよく書いてる。

おぐら 松浦氏があるインタビューで、興味のバランスについて「やっぱり若い頃は“衣”ですよね。その次は“食”で、今は“住”ですね」と応えていたんですど、この順番はけっこう誰にでも当てはまりますよね。

速水 その順番でどんどん値段も高くなっていくし。

おぐら そういった自身の興味の移り変わりを仕事に反映させていく例でいうと、スタイリストのソニア パーク氏にも通じます。2003年にセレクトショップ「ARTS&SCIENCE」をはじめて、今ではオーガニックフードを扱うショップを手掛けたり、広くライフスタイルにまで及んでいる。「ARTS&SCIENCE」のホームページによると、コンセプトは「多種多様化するファッションを、『着る、暮す、食す』 と同様に重要な要素と捉え、独自の方法で真の "贅沢" を提案している」と。

速水 でも2015年に松浦氏の行き着いた先が、クックパッドなんだよね。ネットすら見なさそうなのに。

おぐら もちろん本格的なレシピもありますが、ふりかけだけで作れる時短チャーハンみたいなお手軽レシピやキャラ弁なんかもたくさん載ってますよね。

速水 これってクックパッドがお手軽路線に行き詰まって彼をリクルートしたのか、松浦氏が「ていねいな暮らし」路線に行き詰まったのか、どっちなんだろう。

松浦弥太郎と「ていねいな暮らし」の限界

おぐら クックパッド入社と同じタイミングで、松浦氏が『正直』というエッセイを出したので買って読んでみたんですよ。内容としては、一流品を紹介するようなものではなく、人生論や生き方指南のような感じで、もはやそういう精神性を啓蒙するモードなのかなって。

速水 本を刊行するスピードも、「ていねい」の域を超えつつある。テーマも仕事術にお金術と、バリエーションが自己啓発書の著者っぽい感じ。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

raoluba 「暮しの手帖」の編集長だった人。 -- 2年弱前 replyretweetfavorite

guruxguru2 途中まで読む >> 約3年前 replyretweetfavorite

kaikun1112_ しょっぱなの速水さんのセリフが面白いが有料会員になってまで読まないけどな… https://t.co/3GosAzSVOy 3年以上前 replyretweetfavorite

kamomilkkamo @kamomilkkamo だいぶ前じゃん。クックパッドてhttps://t.co/hvJ26rDDTx 4年弱前 replyretweetfavorite