「一般職の事務なんて誰でもできる仕事なんだから」
草加のtwitterのつぶやきが美沙の脳裏から離れなかった。草加に憤慨をしているという理由だけではない。本当は美沙自身が一番そう思っていたからだ。だからこそ、代わりのきかない仕事を求めて天職活動を始めた。(美沙が自分の天職をみつけるための活動を天職活動と呼んでいるため、このように表記しています)
プルルル—プルルルル—。ぼんやりとしていた美沙は、コールに慌てて受話器を取った。
「大日本精密でございます」
「サニーの岡島ですが、坂井部長はいらっしゃいますか?」
「はい、少々お待ち下さい」
美沙は坂井に電話をまわした。サニーといえば、先日坂井が大型案件を受注した会社だ。一体何の用だろう。
「お世話になります、岡島部長。はい、開発は順調です」
開発? すると坂井は内線用PHSで話しながら席を立った。何か聞かれてはマズイことなのだろうか? 数分後、PHSを片手に戻ってきた坂井は、美沙に言った。
「これからサニーへ行ってきますので、ホワイトボードに記載しておいてください」
「は、はい。いってらっしゃい」
二日後。
美沙はいま、希望退職者募集を受け早々に寿退社をした同期の神木(旧姓:須藤)彩名と向き合っていた。
「それにしても、草加っちもストレス溜まってたのかな」
「私もはじめは信じられなかったよ。産休取る女子社員の悪口いうなんて、女子社員全員敵にまわすようなものだもんね。今までの草加くんじゃないみたい」
「う〜ん。会社ではみんな仮面かぶって仕事してるからね。誰も本音なんてわからないよ」
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