リズムの快楽はどうやって生まれるのか
イラスト:長尾謙一郎
大谷ノブ彦(以下、大谷) 前回は「人種差別とブラックミュージック、ギャルと浜崎あゆみ」ということで、多様性の話でしたけど、今回はこのテーマで行きましょう。
柴那典(以下、柴) 今の時代に、日本のロックバンドはどうやって戦っていくべきか。去年から今年にかけて、the telephones、SEBASTIAN X、The SALOVERSなど、いろんなロックバンドが解散や活動休止を発表しています。
大谷 クラムボンのミトさんもインタビュー※で衝撃的なことを言ってましたね。今までのバンドのやり方じゃ今の時代のスピード感についていけない、という。
※ クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」
柴 ミトさんはバンドだけじゃなく、クリエイターとしてアニソンの分野でも活躍しているし、アイドルのシーンもEDMのシーンも知っている。そういう、ある種の機能に特化したポップミュージックを作っている現場の人と比べると、自分のエゴを優先しているアーティストの感覚はヌルい、と言うんですね。
大谷 当事者がそういう問題提起をしてるっていうのがすごいですよね。歌詞に関しての話もおもしろかった。
柴 クラムボンの新作を制作するにあたって、ミトさんは原田郁子さんの歌詞に徹底的にダメ出ししたって言ってました。「yet」一曲の歌詞を書くのに7ヶ月かかったらしい。
clammbon(クラムボン)「yet」
大谷 そうして何を歌うべきかのメッセージ性を明確にしていったということですよね。
柴 アニメのタイアップをしたことが、歌詞のあり方を考えなおすことにつながったそうなんです。別の媒体で僕もミトさんにインタビューしたんですが、「クライアントからオファーが来て、クラムボンでこういう感じのものを作ってほしいと言われたことがきっかけだった」と言っていました。
大谷 つまり、リクエストに応えるということですよね。でも、そこから発明されることもたくさんあるわけですよ。大滝詠一だって筒美京平だって、そうやって音楽を作ってきたわけだから。
柴 以前にも「アプガ、OK Go、平井堅、キュウソネコカミ……2014年を象徴する曲とは?」の回で大谷さんが言っていた、ポップスというのは本来ノベルティソングだったという話ですね。
大谷 邦楽ロックバンドの一つの戦い方は、そういうノベルティ性に自覚的になることなんじゃないかと思うんですよ。そういう意味で聴いてほしいのが、アルカライダーの「怪盗ミラクル少年ボーイ」。これ、アルカラというバンドの変名グループなんですよ。
アルカライダーのシュールなイメージビデオ -怪盗ミラクル少年ボーイver.-
柴 この曲は「怪盗ジョーカー」というアニメの主題歌ですね。
大谷 これ、ウチの8歳の息子が大好きで。単に好きで楽しく踊ってるっていうレベルじゃないんです。テレビの前で歌いながらアクションをとるし、キメのポーズもやる。
柴 なるほど。本気で憧れてるんですね。
大谷 この曲は歌詞にもめちゃめちゃ中毒性がある。言葉遊びの歌詞なんですけれど、テレビで流れる1分半を聴くだけで、子供たちが真似したくなる。そこがキモなんです。8.6秒バズーカーの「ラッスンゴレライ」と一緒ですよ。
柴 語呂がいいのも重要ですね。意味はなくても何回も言いたくなる。
大谷 「なにぬね乗り込め世界地図」「はひふへ香港 パリ ドバイ」ですから。言ってて気持ちいいんです。つまり言葉のリズムが重要だということ。
柴 七五調ですしね。ドラムとかのビートだけじゃなくて、言葉にも気持ちいいリズムがあると。
大谷 というより、すべての芸能のベースにリズムがあるんですよ。
これはSMAPの中居さんがインタビューで言ってたんですけれど、ジャニーズの人たちが芝居が上手いのは、リズム感のおかげなんですって。ジャニーズは何よりも先にまずバックダンサーをやらされるわけです。リズムを身体でつかむことが一番大事だから、まず踊りを徹底的に叩き込まれる。
柴 なるほど。その感覚がロックバンドにも必要だと。
大谷 今の時代の邦楽ロックバンドは、ノベルティ的な発想とリズムの気持ちよさにもっと自覚的になるべきだと思う。そういう意味では、アルカライダーの曲はたくましいなって思いました。
柴 そういうところで言うと、僕がすごく注目しているのが「カラスは真っ白」というバンド。「HIMITSUスパーク」という曲がすごくいいんです。
カラスは真っ白(A crow is white) "HIMITSUスパーク" (Official Music Video)
大谷 いいですよね。このバンドも絶対人気が出ると思うな。
柴 彼らは速いテンポでフレーズの間も詰めて、気持ちいいリズムを作ってるんです。単に「フェスで盛り上がるには四つ打ちの曲を作ればいいんでしょ?」みたいな発想じゃない。リズムの小気味よさに快楽を見い出している感じがする。
大谷 まさにそうですね。「こういうのがウケるから」って作られたものはつまらない。そこに情熱や快楽性は絶対なきゃダメだと思う。ゲスの極み乙女。もそうですよね。リズムの気持ちよさや言葉の響きが、どんどん進化してきている。
柴 「私以外私じゃないの」という新曲も、相当すごいですね。サビのメロディはシンプルだけど、それ以外の部分ではかなり高度なことをやっている。
ゲスの極み乙女。「私以外私じゃないの」
大谷 やっぱりリズムは大事なんですよ。そこに気持ちよさがあるかどうか。
お笑いの話で言えば、ダウンタウンさんの漫才だってリズムの革新だったと思うんです。それ以前、ツービートとか紳助竜介の漫才に比べてテンポもトーンも全然違っていた。それが衝撃だったんです。
オープンな楽しさ、気持ちよさがシェアされる時代
柴 ここまで挙げたのとは少し毛色が違うんですが、今すごく注目しているのがAwesome City Clubという男女混合のバンド。メジャーデビューしたばかりですが、飛び抜けた存在になりそうな予感がある。
Awesome City Club「4月のマーチ」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。