ほら、この人もそう。私への嫌悪と嫉妬でいっぱいだ。

嫉妬、執着、野心。初めて描かれる“女子アナ”たちの衝撃のドラマ! 小島慶子さんの処女小説『わたしの神様』(幻冬舎)を7日間連日で特別掲載します。
第3回は、ざまあみろと独りごちる女子アナの傲慢。元女子アナだからこそ描けた華やかなテレビ局の舞台裏、そして“女子アナ”たちの強烈な素顔が浮かび上がります。野心と美貌を宿した女たちのバトルをご堪能ください。

「6月から佐野が産休に入るので、後継キャスターに仁和まなみを起用する」

 毎週恒例の会議でプロデューサーの藤村がそう発表したとき、若手のスタッフの中にはおっ、という顔をして目配せをする者たちもいた。まなみはスタッフ受けがいい。人気者となってからもスタッフへの気配りを忘れず、目が合えばえくぼを見せてニコッと笑うのでファンが多いのだ。

「まなみは、佐野の何年後輩だっけ?」

 藤村は、そんなスタッフの反応に複雑な思いでいるアリサに尋ねた。藤村はまなみを採用のときから高く評価し、入社してからもなにかと機会を作っては目をかけている。かつて朝の情報番組で人気アナウンサーを何人も育てた藤村は社内の敏腕スカウトマンのような存在で、男女を問わず、藤村に起用してもらおうとする局アナが多い。アリサは、藤村がことあるごとにまなみの話をするのが面白くなかった。

 今回の交代だって、藤村が決めたことだ。アリサは育休が明けたら番組に戻りたいと希望したのに、聞き入れられなかった。子持ちは現場が気を遣うから勘弁してくれ、とはっきり言われたのだ。子どもが熱出したりいろいろあるだろ、正直使いにくいんだよ、と。

「7期下です。彼女、今年で28だと思います」

「おいおい、年は言わなくてもいいのにネガティブキャンペーンかよ」

 藤村は悪ふざけを言ったつもりだが、アリサは笑えなかった。

「すみません、彼女、私がこの番組を始めたときと同じ年なので。他意はありません」

「そうかあ、あのとき佐野も20代だったんだなあ。おまえ、今年でいくつ?」

 アリサは、こういうときだけ()れ馴れしくする藤村の計算が嫌だった。女子アナと懇意であることを誇示する男は必ず人前で「おまえ」と呼ぶ。誰もそうとはハッキリ言わないが、テレビ局の社員にとって局アナは、タダで使えるみんなの女だ。女としては高嶺(たかね)の花だが、社員の年功序列では後輩に過ぎない。芸能事務所に気兼ねすることなく起用できるし、社員同士の気安さで呼び捨てにもできる。そんな憧れと見下す気持ちとが相まって、支配欲に変わる。「おまえ」と呼びたがる男はそうやって、こいつは俺の女だというアピールをするのだ。高い女郎を買ったような顔をして。

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わたしの神様

小島慶子

嫉妬、執着、野心。初めて描かれる“女子アナ”たち衝撃のドラマ! 元TBSアナウンサーで現在ラジオパーソナリティーやタレントとして活躍中の小島慶子さんが、処女小説『わたしの神様』を上梓しました。cakesでは、本日より7日間連続で特別掲...もっと読む

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コメント

0501Can #小島慶子 4年以上前 replyretweetfavorite

Musik_Himmel 自分が女だと知ってる女はある意味可哀想だと思う。でも女社会に必ずあるこの空気に共感。 4年以上前 replyretweetfavorite

cafe_petit コジケイの意地悪視点て、小説だとおもろいな 4年以上前 replyretweetfavorite