表紙で笑っている仁和まなみを見ないようにしながら、佐野アリサは週刊誌を開いてコピー機に載せた。吐き出された紙には、太字の見出しで「誰も教えてくれない予防接種の真実」と書かれた記事が印刷されている。子どもを産んだら、たくさんの予防接種を受けさせなくてはならないと知った。どれくらいのリスクがあるのか、知っておかなくては。母親たちの不安を取材して、専門家にぶつけてみようか。母親ならではの視点で取材できるのは、私だけなんだし。しばらく報道班には戻れないとわかっているのに、こんなことを考えてしまうなんて、私は根っからのキャスター気質だわ……アリサは自分に
軽い足取りでデスクに向かうと、アリサは机の整理の続きを始めた。
「佐野さん、育休明けたらまた戻って来るんだからそんなにきれいにしなくたって。それとも、これを機にフリーに、なんて考えてるんですか?」
庶務の
「やめてよ、そんな度胸も根性もないわよ。だいたい、二桁いったら終身刑よ」
「何ですか、それ」
「10年以上会社にいたら、もう辞められないってこと。正確に言うと、それまでに芽が出なかったら、フリーなんて無理ってことね」
「ふうん。そんなもんですかねえ」
金井は弁当に視線を戻すと、再び精力的に食べ始めた。
「そうよ、玉名
アリサはかつての同期の名前を挙げた。女3人で入社した同期アナウンサーのうち、12年
「でも、二人とも最近あんまり出てないですねえ。僕はテレビをそんなに見ないので詳しくないですけど。あ、でも佐野さんのニュースは毎週見てますよ。おめでたいことですけど、交代は残念です」
「ありがとう。復帰したらまた報道班に戻りたいって、部長にもお願いしているの」
毎週土曜の夕方6時からのニュース番組「ウィークエンド
アイドル顔負けの容姿でバラエティー番組を席巻した小枝子、
「それにしても、二人とも華やかよね。小枝子ちゃんはあの朝ドラの素敵な俳優さんと結婚したし、香織ちゃんは今、ニューヨークなんでしょ。羨ましいわ」
羨ましいというのは
アナウンス部に誰もいないとき、アリサは週刊誌のゴシップ記事を丹念に読む。本当は小枝子の夫のフルネームだって知っているし、香織が妻子持ちの野球選手と不倫して、渡米したのを追いかけてまで執着しているらしいという記事も先週読んだばかりだ。ほら見ろ、と思った。勘違い女の末路は哀れだ。
弁当を食べ終えた金井は、お茶を飲みながら話題を変えた。
「テレビ太陽のアナウンサーで産休とる人、佐野さんが初めてなんですよね? 臨月までニュースを読むキャスターなんて、ほとんどいないんじゃないですか?」